核出力の算出と論争
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/01 07:01 UTC 版)
核爆発の出力を計算することは、キロトン又はメガトンといった大雑把な数字を使っても難しいものがある(単位にテラジュールを使う方が若干精密である)。よく管理された状況の下でさえ、核出力を精密に測定することは非常に難しく、より管理が行き届いていない状況では、誤差の範囲は非常に大きくなりうる。核出力は、爆発の大きさ、爆発の明るさ、地震計のデータと衝撃波の強さに基づく計算をはじめとするいくつかの方法によって計算できる。エンリコ・フェルミが、トリニティ実験の際に小さな紙切れをいくつか空中にまき、それらが爆発の衝撃波によって動かされた距離から核出力を(かなり)粗く概算したことはよく知られている。核出力の優れた近似は、G.I.テイラーによって導かれた無次元数を使って概算できる。その無次元数 c は、次の式で表される。 c = E t 2 ρ R 5 {\displaystyle c={\frac {E{t}^{2}}{\rho \,{R}^{5}}}} E は核爆発のエネルギー (J)、 t は時間 (s)、 ρ は空気の密度 (kg/m³)、 R は爆発半径 (m) である。 ここで、核爆発のエネルギーを求めるために、c を定数とみて E について解くと、 E = c ρ R 5 t 2 {\displaystyle E={\frac {c\rho \,{R}^{5}}{{t}^{2}}}} となる。この式から、核爆発のエネルギーを計算するために必要となるものは、爆発の半径、爆発の半径を測るための基準長スケール、及び時間の経過がわかる写真である。例証としてトリニティ実験における核爆発の写真を用いると、写真のデータから時間 t が0.025 s、爆発半径 R がおよそ140 m(直径 280 m)だとわかる。空気の密度 ρ を1 kg/m³、c を定数として大気中でのおおよその値1.033を代入すると、 E = 8.889×1013 Jとなる。 1 kt(キロトン)のTNTのエネルギーを4.184×1012 Jとすると、トリニティ実験の核出力は21.24 ktとなり、よく言われる20 ktという値に比較的うまく一致する。 このような実験データを利用できないいくつかの事例のような場合は、特にこれらが政治的問題に拘束されるとき、正確な核出力は論争の的となる。例えば、広島と長崎への原子爆弾投下で使われた核兵器は非常に独特かつ特有の設計であり、回顧的にそれらの核出力を測定することは極めて難しい。インプロージョン方式の長崎型原爆「ファットマン」が18 - 23 kt(許容誤差10%)であると見積もられているのに対し、ガンバレル型の広島型原爆「リトルボーイ」は12 - 18 kt(許容誤差20%)であったと見積もられている。ガンバレル型は例が少なく、他の核実験を参考にして核出力を推定するのが困難であるため、誤差が大きくなっている。他の爆弾が戦闘においてどのように作用するか反映するものとしてこれらの核爆弾による爆撃からのデータを使おうとするとき、そのうえ他の核兵器が広島型原爆いくつ分に等しいかという評価で異なる結果が出ようとするとき、基準となる値の小さな変化は重要となりえる。例えば、アイビー作戦のマイク実験で用いられた水素爆弾は、867個から578個分の広島型原爆に等しかったとされるが、これらは文字の上でもまったくもって相当な違いがあり、人が計算のために高い数字を使うか、低い数字を使うかどうか次第である。他に異議を唱えられた核出力は、巨大なツァーリ・ボンバがあるが、爆弾の力を誇張する方法として、又はそれを低める試みとして核出力は“わずか”50 Mtから最高57 Mtの間で異なる政治家たちによって主張された。 核実験の核出力は、ツァーリ・ボンバの例のように、技術的な専門知識の高さを誇示する方法として使うこともできる。また、核出力がより高かったと主張することで、又はより低かったと告発することで、核開発計画の技術的な能力をそれぞれ実際よりも誇張するか、軽んじる方法として使うこともできる。インドが1998年のシャクティ作戦における核実験で水素爆弾の爆発を成功させたと主張したとき、多くの西側諸国の観測者らは、インドの核実験が水素爆弾の爆発の成功したかどうかを判断するために地震計のデータの分析を頼りにした。そのいくつかは、インドが報告した核出力より実際の実験の核出力のほうが低かったと主張した。西側の指摘が本当であるならば、インドの主張は明らかに、対立するパキスタンよりインドのほうが優れた核技術を持っていると主張するためか、例えば隣接する中国のような他の潜在的ライバルに対してインドの軍事力を示すための政治的手段である。
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