核内受容体
核内受容体
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/12 16:15 UTC 版)

核内受容体(かくないじゅようたい、nuclear receptor)とは細胞内タンパク質の一種であり、ホルモンなどが結合することで細胞核内でのDNA転写を調節する受容体である。発生、恒常性、代謝など、生命維持の根幹に係わる遺伝子転写に関与している。ヒトでは48種類存在すると考えられている[1]。
核内受容体はリガンドが結合すると、核内に移行しDNAに直接結合して転写を制御する。すなわち転写因子の一種である。
リガンド

ビタミンAやビタミンDなどの脂溶性ビタミンや甲状腺ホルモン、ステロイドホルモンなどが核内受容体に結合し、活性化させる。核内受容体はきわめて多くの遺伝子転写を調節しているため、このようなリガンドは生体に強い作用をもたらす。疾患に関与する遺伝子も多く、アメリカ食品医薬品局が認可している医薬品の13%は核内受容体をターゲットとしたものである。
核内受容体の中には内在性リガンドが明らかとなっていない(少なくとも、広く認められていない)ものも多く、そのような受容体をオーファン(孤児)受容体と呼ぶ。そのうちFXRやLXR、PPARなどは、(比較的弱いながら)脂肪酸や胆汁酸、コレステロール代謝物など代謝に関連する化合物をリガンドとすることが近年の研究で明らかにされており、脂質センサーとして機能していると考えられている。またCARやPXRは異物センサーとして機能し、異物を代謝するシトクロムP450を誘導することが見出されている。これら近年に機能が見出された受容体は、Adopted Orphan Receptorとして新たに分類されている。
構造

- A/B領域:N末端側に位置し、リガンド非依存的な転写活性化能を有するAF-1領域を含む[2]。
- C領域:DNA結合ドメイン (DBD)。2か所のジンクフィンガーが、DNAのホルモン応答領域(HRE)と呼ばれる部分に結合する。
- D領域:ヒンジ領域。DBDとLBDを柔軟に結合している。
- E/F領域:リガンド結合ドメイン(LBD)。αヘリックスが多く存在し、リガンド依存的に転写活性可能を有するAF-2領域を含む。リガンドの結合によってコンフォメーションが変動し、受容体の二量体化やコアクチベーター・コリプレッサーとの結合に寄与する。
核内受容体スーパーファミリーに属する受容体
核内受容体同士は上記のように遺伝子配列に高い共通性があり、遺伝子スーパーファミリーを形成している。以下に、ヒトに存在する48種の核内受容体を相同性に基づく分類[3][4]により以下のように列記する。
サブファミリー:サブファミリー名
- グループ名(ある場合は、共通する内因性リガンド)
- 受容体名(略号、NRNC表記、遺伝子)(内因性リガンド)
サブファミリー1:甲状腺ホルモン受容体型
- グループA:甲状腺ホルモン受容体 (甲状腺ホルモン)
- グループB:レチノイン酸受容体 (ビタミンAなどのレチノイド)
- レチノイン酸受容体α (RARα, NR1B1, RARA)
- レチノイン酸受容体β (RARβ, NR1B2, RARB)
- レチノイン酸受容体γ (RARγ, NR1B3, RARG)
- グループC:ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体 (脂肪酸、プロスタグランジン)
- グループH:肝X受容体型 (オキシステロール)
- グループI:ビタミンD受容体型
サブファミリー2:レチノイドX受容体型
- グループE: TLX/PNR
- グループF:COUP/EAR
サブファミリー3:エストロゲン受容体型
- グループA:エストロゲン受容体 (エストロゲン)
- エストロゲン受容体α (ERα, NR3A1, ESR1)
- エストロゲン受容体β (ERβ, NR3A2, ESR2)
- グループB:Estrogen related receptor
- グループC:3-ケトステロイド受容体群
- 糖質コルチコイド受容体 (GR, NR3C1)(コルチゾール)
- 鉱質コルチコイド受容体 (MR, NR3C2)(アルドステロン)
- プロゲステロン受容体 (PR, NR3C3, PGR)(プロゲステロン)
- アンドロゲン受容体 (AR, NR3C4, AR)(テストステロン)
サブファミリー4:神経成長因子IB 型
- グループA:NGFIB/NURR1/NOR1
サブファミリー5:ステロイド産生因子型
サブファミリー6:GCNF型
- グループA:GCNF
- Germ Cell Nuclear Factor (GCNF, NR6A1)
サブファミリー0:その他
- グループB:DAX/SHP
歴史
- 1905年 アーネスト・スターリングがホルモンという言葉を考案
- 1926年 エドワード・カルビン・ケンダルとタデウシュ・ライヒスタインがコルチゾンとチロキシンを単離、構造決定
- 1929年 アドルフ・ブーテナントとエドワード・アダルバート・ドイジーがそれぞれ独立してエストロンを発見、構造決定
- 1961年 エルウッド・ジェンセンがエストロゲン受容体を単離
- 1980年代 ピエール・シャンボン、ロナルド・エヴァンス、Björn Vennströmによってエストロゲン受容体、グルココルチコイド受容体、甲状腺ホルモン受容体がクローニングされる
出典
- ^ Zhang Z, Burch PE, Cooney AJ, Lanz RB, Pereira FA, Wu J, Gibbs RA, Weinstock G, Wheeler DA (2004). "Genomic analysis of the nuclear receptor family: new insights into structure, regulation, and evolution from the rat genome". Genome Res 14 (4): 580–90. doi:10.1101/gr.2160004 PMID 15059999
- ^ Wärnmark A, Treuter E, Wright AP, Gustafsson J-Å (2003). "Activation functions 1 and 2 of nuclear receptors: molecular strategies for transcriptional activation". Mol. Endocrinol. 17 (10): 1901–9.
- ^ Nuclear Receptors Nomenclature Committee (1999). "A unified nomenclature system for the nuclear receptor superfamily". Cell 97 (2): 161–3. doi:10.1016/S0092-8674(00)80726-6 PMID 10219237
- ^ Laudet V (1997). "Evolution of the nuclear receptor superfamily: early diversification from an ancestral orphan receptor". J. Mol. Endocrinol. 19 (3): 207–26. doi:10.1677/jme.0.0190207. PMID 9460643
関連項目
外部リンク
核内受容体
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/10/16 06:25 UTC 版)
ERには2つのアイソフォームが存在しており、それぞれERα(NR3A1、595アミノ酸残基)およびERβ(NR3A2、530残基)と呼ばれる。これらは独立した遺伝子(ESR1、ESR2)から産生され、選択的スプライシングによる産物ではない。ESR1は6q25.1に存在し、ESR2は14q21-22に存在している。リガンドの結合により活性化されたERタンパク質はホモ(αα、ββ)あるいはヘテロ二量体(αβ)を形成する。また、ERαとERβはいずれも6つのドメイン(A-F領域)から構成されている。2種類の受容体タンパク質間ではアミノ酸配列の配列類似性が高く、DNA結合領域(C領域)で96%、リガンド結合領域(E/F領域)は若干低く58%となっているが、A/B領域やD領域では配列類似性が低い。ERの転写活性化に関与する2つのドメイン構造はA/B領域およびE領域内に存在し、それぞれAF-1およびAF-2と呼ばれている。これらのリガンドに対する反応性はそれぞれ異なり、AF-1による転写活性化はリガンド非依存性であり恒常的に転写活性化能を示すが、AF-2による転写活性化はリガンドの結合に依存している。さらに、DNA結合領域(C領域)には2つのZnフィンガーモチーフが含まれ、DNA上に存在する応答エレメント(ERE:AGGTCAnnnTGACCT、nはATGCいずれかの核酸)との結合に関与している。D領域はヒンジ領域と呼ばれ、受容体タンパク質の柔軟性を形成している。カルボキシル基末端側のEおよびF領域はリガンドとの結合に関与しているドメインであり、リガンド非結合状態においてはhsp90やhsp70等の分子シャペロンと結合している。また、この領域は受容体タンパク質の二量体形成においても重要な働きをしている。
※この「核内受容体」の解説は、「エストロゲン受容体」の解説の一部です。
「核内受容体」を含む「エストロゲン受容体」の記事については、「エストロゲン受容体」の概要を参照ください。
核内受容体と同じ種類の言葉
- 核内受容体のページへのリンク