最期の言葉
『上海帰りのリル』(島耕二) 山本謙吉は、行方不明のリルとの再会を願い、横浜にキャバレー「クリフサイド・クラブ」を作った(*→〔歌〕5b)。暴力団がクラブの乗っ取りをたくらみ、山本と銃撃戦になる。クラブのマダム紀子は山本に思いを寄せていたが、彼女も山本とともに銃弾を受けて倒れる。紀子は瀕死の山本に寄り添って、「山本さん」と呼びかける。しかし山本の口からは「リル」という名前が洩れただけだった。紀子は山本を射殺し、自らも死んだ。
『肉体の悪魔』(ラディゲ) 少年の「僕」は、年上の人妻マルトと愛人関係になる。マルトは「僕」の子供を産み、その子に「僕」と同じ名前をつける。マルトの夫ジャックは、妻の不義を知らない。産後しばらくして、マルトは病死する。ジャックは、「妻はあの子の名前を呼びながら死んで行きました」と言って嘆く。そうではない。マルトは「僕」の名前を呼びつつ死んだのだ。
★2.謎の言葉を残して死ぬ。
『市民ケーン』(O・ウェルズ) 老齢に達した新聞王ケーンが、「バラのつぼみ」という謎の言葉をつぶやいて死ぬ。その言葉の意味を明らかにすべく、ケーンの生涯が調査される。ケーンは伯父から相続した遺産をもとに、莫大な富と名声を得たが、妻も親友も愛人も失った。大邸宅で孤独のうちに死を迎えるケーンは、幼い頃の楽しかった雪遊びを思い出す。「バラのつぼみ」とは、雪遊びの橇(そり)に書かれていた文字だった。
『砂の器』(松本清張) 殺された男がその直前、東北なまりで「カメダ」という謎の言葉を残した。警察は、東北地方の「カメダ」姓の人物を調査するが、該当者はいない。「カメダ」は人名ではなく土地の名前であり、「カメダ」と聞こえたのは、島根県の亀嵩(かめだけ)地方のことだった。この地方では、東北弁によく似た言葉が使われていた。
『まだらの紐』(ドイル) 夜、寝室で何物かに襲われたジュリアは、駆けつけた妹ヘレンに、「まだらの紐( speckledband )」という謎の言葉を残して死ぬ。ジプシーの群れ( band )、そして彼らのかぶる水玉模様( speckled )のハンカチを意味するのではないか、とヘレンは考えるが、「まだらの紐」とは毒蛇のことだった。
*小菜女(さなめ)は「イアラ」と絶叫して、大仏の中に溶かしこまれた→〔人柱〕7の『イアラ』(楳図かずお)。
『Xの悲劇』(クイーン) 列車内で射殺されたドゥイットは、左手の中指を人差し指の上に斜めに重ねてXの字形を作り、誰が犯人かを示した。犯人は検札の車掌をよそおってドゥイットに近づいたのであり、Xは、車掌が切符に入れるパンチ跡の形を意味していた。
★4.最期の言葉の心得。
『発心集』巻2-5 夜、覚尊上人が仙命上人の房を訪れたが、板敷きの板が2~3枚はずしてあったので、下に落ちてしまった。落ちる時、覚尊上人は「あな、悲し」と声をあげた。仙命上人はそれを聞きとがめ、「落ちて死ぬ可能性もあるのだ。最期の言葉としては、『南無阿弥陀仏』とこそ申すべきだ」と言った。
『発心集』巻2-9 前滝口武士助重は盗人に射殺されたが、箭(や)が背中に当たる時、ただ一言、「南無阿弥陀仏」と叫んで死んだ。その声は隣の里にまで聞こえた。人が来て見ると、助重は西に向かい、すわったまま眼を閉じて死んでいた→〔死夢〕3。
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