日本語における活用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/04 02:40 UTC 版)
日本語の「活用」という用語は江戸時代の国学で本居宣長が用いて以来のものである。 日本語の動詞や形容詞、形容動詞、助動詞は、節の述語の中心となるとき、その節全体の中で果たす意味や機能によって異なる語形で現れるが、このことを動詞や形容詞、形容動詞、助動詞の活用という。 日本語の述語全体(動詞・形容詞から終助詞/接続助詞までを含む。)は、アクセントや息継ぎなどの点からいくつかの語に分けることができる。つまり、日本語では述語は全体として複数の連続する語によって構成されている。 述語全体を語に分けず一体のものとして扱い、そのさまざまな形の変化を活用と呼んでパラダイムにまとめる立場もあるが、表が非常に大きくなる上、語ごとに同じ語形が何度も現れるため、無駄の多い記述法であるとされる。これは、述部を構成している語はそれぞれ語形変化し、しかも同類の語は複数続くこともあるために、述語全体の形式のバラエティが豊富になるからである。 このため、日本語の述語の形の変化は、述語全体を構成する語の語順と、各語の語形変化とに分けて記述されることが一般的である。 日本語の述語全体は以下のように構成されている。 動詞/形容詞 - 補助動詞 - 助動詞 - 終助詞/接続助詞 動詞/形容詞、補助動詞、助動詞はそれぞれ語形変化し、補助動詞、助動詞、終助詞/接続助詞は同類のものが複数一定の順序で続くことがありうる。 伝統的な文法論(橋本進吉らの学校文法)でいう活用とは、音声的な形態の違い、つまり付属する助動詞や助詞の違いに対応する語幹の母音の変化によって述語を分類している。例えば、動詞五段動詞の「書く」であれば、「書か(ない)」「書き(ます)」「書く」「書く(こと)」「書け(ば)」「書け」のように母音がa, i, u, eと変化する。この五段動詞の音声的な変化を規準にして他の一段動詞や形容詞・助動詞にいたる活用形・活用表が作られている。 伝統的な活用表は形態素の連接による語形変化をそのまま反映しているのではなく、終止形・命令形のようにそれだけで意味を持つ単位であるものと、未然形や仮定形のように「ない(ぬ)」や「ば」を伴って初めて一定の意味をもつものが混在している。これは、現行の活用表が国学以来の伝統にのっとってかな単位で用言を分析していることと、ゼロ形態を想定していないことによる。音素表記によって日本語の動詞を形態素分析してみると、例えば「書く」「着る」「書かないで」「着ないで」「書かれる」「着られる」などは、それぞれ「kak-u」「ki-(r)-u」「kak-(a)-naide」「ki-naide」「kak-are-(r)-u」「ki-(r)-are-(r)-u」のように分析できる。この分析から、「kak-(書k-)」「ki-(着-)」という語幹と、「-u(終止・連体形)」「-naide(-ないで)」といった語尾、そして派生語幹をつくる接辞である「-are-(れる、られる)」などの形態素を認定できる。語尾「-u」が「着-」に連接するときに「kiru」という形態をとることや、「-naide」が「書k-」と連接すると「kakanaide」となることは、母音連続・子音連続を解消するために /r/ や /a/ が挿入されたものと考えられ、それぞれの形態素は一貫して同じ形態で記述できる。このように考えると、日本語の活用とは、語幹/派生接辞/語尾といった形態素が膠着的に連接していき、結果生じた母音連続や子音連続を解消するために子音や母音が挿入される過程であるといえる。
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