文化遺産における特異点
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/10 04:56 UTC 版)
「文化的特異点」の記事における「文化遺産における特異点」の解説
世界遺産(特に文化遺産)の安定した発展のためにユネスコは常に新しい分野の取り込みとそれを評価するための解釈や概念を構築しており、従来の価値観から大きく踏み出した試みについて「文化遺産(の登録審査)における特異点(Singularity in cultural heritage)」と表現することがある。 2012年、スイス・イタリア・ドイツ・フランス・オーストリア・スロベニアに跨るアルプス山脈周辺の先史時代の杭上住居群が世界遺産に登録された際、歴史観や考古調査方法が異なり調査時期に半世紀以上の時差がある複数の国によるトランスバウンダリー申請で、先史時代にアルプス山脈を越えることは不可能と考えられているものの、杭上住居はアルプスを挟んだ南北両裾に点在し、北と南では石器の仕様や土器の意匠が異なり、出土人骨の鑑定から別種民族であった可能性が高く、文化循環の形跡も見当たらないことから、「北と南では互いに存在の認識はなかった」と結論付けられていたため、なぜ共通する住居様式が成立したのか統一性・一貫性ある説明が必要となり、「存在の概念がない世界」という手法を採用し理論展開した。歴史学に、心理学や行動科学を用いて推測する作業仮説による検証法(弁証法)・思考実験で挑んだ取り組みによる世界遺産推薦をユネスコは「文化遺産における特異点」と評価した。 2018年、長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産が登録された際、当初の教会建築での推薦が不可とされ、潜伏キリシタンが切り拓いた集落景観を主体とすることになったが、そこにある家屋の多くが戦後に建てられた新しい建築物であるため評価しにくかった。そこで「special cultural or physical significance(特別な文化的または物理的重要性)」という新たな価値観が提唱された。物理的とは無形の時間(の流れ・経過)や空間を有形具現化しているものを指し、その実例として長期間信仰心を継承した潜伏キリシタンという世界にも例がない特別な存在が残した集落の意義が認められた。この新解釈をユネスコは「文化遺産における特異点」と評価した。 2019年、イギリスのジョドレルバンク天文台が登録された際、1957年に建てられた新しい宇宙観測施設を世界遺産とする決断をユネスコは「文化遺産における特異点」と評価した。
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