家政学の発展
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家政学の研究と教育が学会の活動を通して活発におこなわれるようになった。しかし、家政学とは何かという「家政学」そのものを問う議論はまだ続けられた。1968年(昭和43年)には家政学会の中の分科会として「家政学原論研究委員会」が発足した。高度経済成長によりこれまでの価値観が変化したことにより、生活様式や家族関係に微妙な影響を与えた。そのような変化に家政学がどのようにアプローチすることができるかということが問われたのが「家政学原論」である。家政学では、食物や被服等の自然科学的分野の研究が多いが、個々の専門性が強くでてくると家政学という共通認識が薄れがちになる。家政学とは何かを問いかける「家政学原論」の重要性がやっと家政学者の中から認識され、特に家庭経営学や家庭経済学の研究者の手によって研究されるようになってきた。 1970年(昭和45年)から1972年(昭和47年)にかけて、家政学原論委員会が家政学の定義の原案を作成した。日本の家政学会が家政学の定義をこのような要請によって発表することによって、初めて家政学の定義が公式の機関によって認知された。1970年(昭和45年)、家政学の意義を「家政学は、家庭生活を中心として、これと緊密な関係にある社会事象に延長し、さらに人と環境との相互作用について、人的・物的の両面から研究して、家庭生活の向上とともに人間開発をはかり、人類の幸福増進に貢献する実証的・実践科学である」とまとめている。この定義はアメリカ家政学会の影響を強く受けたものといわれている。この当時日本には家政学の概念規定の確立がなかった。 1980年代、家政学が発展してきているにもかかわらず、その目的、対象、方法などについて家政学者の中で一致がみられず、また、様々な分野における個別的な研究が分化的に進むなか、「家政学とは何か」という家政学の再定義問題が浮上してきた。そこで1984年(昭和59年)「家政学将来構想1984」において、家政学の定義を「家政学は、家庭生活を中心とした人間生活を中心とした人間生活における人間と環境の相互作用について、人的・物的両面から、自然・社会・人文の諸科学を基盤として研究し、生活の向上とともに人類の福祉に貢献する実践的総合科学である。」とした。この定義は1970年(昭和45年)の定義を基盤としているが、家政学を「実践的総合科学」とした点が新しい側面である。 この中には,「将来への展望」として,20世紀の終わりまでの「将来への具体的提言」が掲げられた。大きくまとめると 学問としての「家政学」の本質に関する問題。すなわち家政学の目的,対象,研究方法からそれに伴う独自性の確立まで。 「家政学」研究の現状やそのあり方に関する問題。すなわち研究・教育体制から学会組織,学会誌,家庭科教育との関連まで。 「家政学」の社会・人類への貢献に関する問題。家政学の研究成果の社会に対する直接的還元から,「生活」研究・国際的視野に立った今後の家政学の方向まで。 この「家政学将来構想1984」は、序文に「学会会員の長年の悲願であった、法人化の達成・学術会議への参加・国際協力の組織化などの目標を一応達した区切りの段階の里程標」として、家政学を世に問うものとしてまとめられたものである。このような一つの学問に対する「将来構想」というものが学会を中心に作成されることは、他の分野の学問ではきわめて稀なことで、家政学の持つ歴史がそれだけ浅く、確立されていない学問であることがわかる。また、「家政学」の学問的な将来構想というより、家政学を取り巻く状況の再構築という感が否めない。これは家政学の学問的な未熟さに加えて、家政学者を含めて家政学に対する認識の低さが原因となっているといわれている。
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