大量訂正の目的と問題点
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/23 19:54 UTC 版)
「大量訂正 (論文)」の記事における「大量訂正の目的と問題点」の解説
本来の訂正の目的である学術論文の真正を保ち、読者の誤解がないようにするという目的で行われることがある。しかし、しばしば論文の撤回回避や不正隠蔽を目的として大量訂正が行われる。 例えば元東京大学分子細胞生物学研究所教授はネイチャー論文で「捏造・改竄の疑いを把握していながら、当該論文の撤回を回避するためにその隠蔽を図り、関係者に画像や実験ノートの捏造・改ざんを指示し、事実と異なる内容を学術誌の編集者へ回答するなど、極めて不当な対応をとっていた。」ということがあった。 また、この大量訂正はコピペ流用や加工が大量にあり一見して明らかな捏造の隠蔽と撤回回避のための虚偽訂正であったにも関わらず、世界的な超一流誌と目されるネイチャー誌さえ、過失という著者の虚偽説明を鵜呑みにして、訂正公告で過失と表明し、虚偽の内容を公表した。 このように本来は研究の主旨や結論に抵触しない範囲で、わずかに誤った場合に訂正するという国際標準を逸脱し、主旨や結論に抵触しなければ、どのような訂正でもよいという大量訂正が行われたり、撤回回避や不正隠蔽を目的とする極めて悪質な大量訂正が有力誌でも、しばしば行われる。 このような杜撰な審査、不正隠蔽の片棒を担ぐ出版社の大量訂正掲載に対し、日本分子生物学会の研究倫理のフォーラムで大量訂正は一種の査読システム違反であり、後から大量訂正できるならば、査読者がデータの公正さや結論の正しさを判断する事ができないという指摘があったが、ネイチャー誌の編集者は論文の主旨、結論が正しいかどうかで撤回かどうかを判断するという回答であった。 研究の主旨や結論の正当性と不正の有無は関係ないにも関わらず、研究不正の疑いがかけられたとき、被疑者はしばしば「主旨や結論が間違っていないので不正はない。」と反論する。そのため不正の隠蔽のために、本来主旨や結論が間違っているにも関わらず、上の例のように虚偽の説明で強引な大量訂正を行おうとする事が、大量訂正の動機として考えられる。 しかし、このような撤回回避、不正隠蔽を目的とした極めて悪質な大量訂正やその片棒を担ぐ出版社の杜撰かつ不正な審査を改善する対策は実施されていない。また大量訂正も主旨や結論が間違っていなければ出版社の裁量で、どのような大量訂正でも行われているのが実情であり、国際標準からの逸脱に対する改善も行われていない。 また近藤滋大阪大学教授は 「自主的にリトラクションした人と、明らかなコピペを指摘されても強制されるまで処置しない人や無理やりメガコレクションでごまかす人のどちらを信用する気になりますか?」 「たとえ、コレクションをジャーナルが認めたにせよ、読者はその論文のデータを信用しないので、その論文は「アカデミックな意味で」存在価値がありません。したがって、その論文に関する全てを代表する責任著者の義務として自主的にリトラクションをするべきだと、私は思います。」 「私がグラントや新規採用の審査委員であったとして、応募者の論文リストにメガコレクションの論文があれば、信用できない研究者と判断し大きなマイナス評価をします。中川さんもおそらく同じだと思います。逆に、リトラクションされていれば、リストにその論文がないので評価には影響しません。」 という問題点を指摘した。 基準の項目で示したとおりCOPEガイドラインでは研究の発見(結論、主旨)が信頼できない場合は撤回となるが、大量訂正はそれに違反している。
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