外貨準備の膨張と過剰流動性の歴史
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/12 05:17 UTC 版)
「外貨準備」の記事における「外貨準備の膨張と過剰流動性の歴史」の解説
1960年代末ごろから日本や西ドイツの経済的躍進が続き、アメリカの国際収支は次第に赤字が続くようになった。これは翻って日本や西ドイツにおける外貨準備の増大と通貨発行量の増大を意味した。アメリカはドルの価値を保持することよりも経済政策の自由度を高めることを求め、ニクソン・ショックにより主要国は変動相場制へ移行した。以後、管理変動相場制を掲げてしばしば行なわれた為替介入により各国の外貨準備高は変動した。そして先進国の多くは自国の経済的パフォーマンス、より率直には自国の中央銀行が保有する有価証券の安全性を裏づけとして通貨を発行するようになった。変動相場制をとる国は介入こみの実勢レートで自国通貨の交換性を保持するようになった。 1990年代、ミューチュアルファンドの台頭もあってユーロダラーが隆盛を極めた。日本も便乗して外貨準備保有高を増加させた。固定相場制かつ国際収支が赤字で通貨が過大に評価されていると思われる国々は、次々に為替攻撃を受けて外貨準備を喪失した(ポンド危機とアジア通貨危機)。そうした国々は固定相場制を放棄せざるを得なくなった。 21世紀に入ってからは、固定相場制かつ国際収支が黒字の中国や産油国が、記録的な外貨準備高を保持するようになった。これらの国々はアメリカとの貿易が経済上重要であるため、安定性を確保する目的から事実上の固定相場制を採用している。結果としてアメリカの巨額の経常赤字を資本輸出によってファイナンスしている。 同様の結果は近年の変動相場制の日本でも出ている。2003年から2004年にかけて、溝口善兵衛財務官主導の史上空前のドル買い為替介入(テイラー・溝口介入)が行われ、ドル建て外貨準備が激増した(右グラフ)。政府は為券(外国為替資金証券)を発行し、国債の累積残高を増加させていった(日本国債#国債残高の推移を参照)。 日本政府は外貨準備の運用方法を開示していないが、大部分が米国債で運用されていると指摘されている。行政機関の保有する情報の公開に関する法律の制定をうけて、2000年度以降に大まかな内訳が開示されるようになった。またその運用は対象通貨国債(米国債など)、預貯金、金などに限定される方針が財務省から出されている。 なお、平衡操作がおこなわれていない2004年度から2009年度にかけて日本の外貨準備高は増加傾向で推移しているが、これは外貨建て運用収入が外為特会の歳入に直接組み入れられず、外貨のまま運用された影響を受けている。『特別会計に関する法律』では運用収入を外為特会の歳入とする事が定められているが、実際には外貨建て運用収入の円換算相当額を為券で調達し、歳入に組み入れていた。財務省が公表している「外貨準備等の状況」については、外貨準備のうち「証券」と「金」が時価評価されている影響も含む。ちなみに、日本の外貨準備の運用収入(外貨証券や外貨預金等に係る利息収入等)は、平成19年度(2007年度)には過去最高の4兆3086億円にのぼったが、翌年度には3兆6303億円まで減少している。。 日本の外貨準備高は2006年度末現在で119兆8267億93百万円であり、変動相場制を維持する上で必要とされる実務的な準備水準としては、過剰な水準である。売却すれば売上げを為券の償還資金に充当できるが、売却はおろか、売却による円高および輸出力低下との比較衡量さえ行われていない。米国債として保有している分については、連邦準備制度の低金利政策で価格が下落する危険をはらんでいる。また、一般に金利の高い新興国が金利の低い先進国通貨で外貨を準備すると、その金利差は機会費用となる。逆サヤ国では外貨準備の積極運用への動因がつよく、たとえば韓国ではABS(不動産担保証券)に外貨準備の10%を越える投資を行っている。これはこれで、証券価格の下落する危険を冒している。 2008年11月のG20金融サミットで麻生太郎首相は、日本の保有外貨準備高からIMFに10兆円を支出し世界経済を支えると宣言した。 中国では、米ドルの長期低落傾向に対し、外貨準備の運用先を多様化するなどでリスク分散を図るとともに、米国住宅バブル問題(サブプライムローン#米国における抵当危機を参照)などで疲弊した米国金融資本に資本参加するなど戦略的な運用がされているが、世界金融危機でこの出資は損失を出した。このことは外貨準備高運用の難しさを示している。
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