危うい低空飛行
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/17 03:30 UTC 版)
「ニュージーランド航空901便エレバス山墜落事故」の記事における「危うい低空飛行」の解説
事故機は雲に覆われたエレバス山へ向かって高速で低高度のまま飛行した。 墜落直前の飛行速度は対地速度257ノット(時速約476キロメートル)だった。この速度は高いものであったが、旋回等を安全に行うための最小安全マニューバー速度にほぼ等しかった。フラップとスラット(高揚力装置)を展開していれば、より低速での飛行が可能だった。しかし、高揚力装置を南極で使用することは固く禁じられていた。 高揚力装置とは翼の一部を可動させ広げる装置である。高揚力装置を使用すると離着陸時などの低速飛行時に揚力を得やすくなる一方で、抗力が大きくなり燃料消費が増えて航続距離が短くなる。着陸可能な飛行場から遠い南極において、故障や着氷により高揚力装置を格納できなくなる事態を避けるための禁止措置だった。 降下した後のTE901便では超短波通信 (VHF) での通信に支障があったほか、距離測定装置 (DME) がマクマードのタカン(TACAN:地上局からの方位と距離の情報を提供する無線航法援助施設)も捕捉できずにいた。これらの原因は飛行高度が低すぎたためと考えられ、同機と地上施設の間に電波を妨害するような、かなり高い地形が存在したことを示唆する。マック・センターはTE901便に、降下の際には軍の監視レーダーを利用するよう勧めていた。乗員はこの申し出を受け入れたものの、当該機がレーダーに捕らえられることはなかった。 衝突の前までに機長も副操縦士もAINS(航法装置)のディスプレイを確認していたようである。AINSは、航空機の位置を実際より3.1マイル(約5.7キロメートル)南西に表示していた。この誤差は許容限界内であった上、実際よりエレバス山の近くにいるように表示されていた。AINSは、自機が飛行計画の経路上にありロス島に向かっていることも示していた。機長は航法士の資格を持っており、自機の位置や主要地点の位置関係を把握する能力があったはずだった。 マクマード基地からの運航支援について、乗員に正しい情報が伝わっていなかった。アメリカ海軍は、彼らが提供する航空交通管制、飛行監視、気象予報はあくまで参考情報だとニュージーランド民間航空局に通知していた。しかし、乗員にはマクマード基地の管制能力は他の管制機関と同等であると説明されていた。また、ニュージーランド航空が規定した高度や飛行範囲の制限をマック・センターの担当者は知らなかった。マック・センターは有視界飛行での降下を許可したが、通常のように障害物からの距離や高さを勘案したものではなかった。 コックピットボイスレコーダーの記録によると、降下中の機長や副操縦士は落ち着いており自信に満ちていた様子が伺える。副操縦士はマック・センターとの交信作業などに注意を奪われていた。そして、機長の操作に助言せず、最低安全高度以下に降下した際も異議を挟まなかった。しかし、2人の航空機関士は、事態の進行に対し何度も懸念を示しており、対地接近警報装置が鳴る直前にも不安の高まりを表現していた。 事故機のレーダーは前方の山岳地帯を描写していただろうこと、そして航法装置の表示をモニターしていれば、自機の位置を把握できたはずだと事故調査報告書は述べている。
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