化学療法の原理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/01 15:28 UTC 版)
「化学療法 (悪性腫瘍)」の記事における「化学療法の原理」の解説
化学療法という言葉は、悪性腫瘍の治療のみならず、感染症や自己免疫疾患の治療においても用いられる。根本的な病因は異なるが、薬理学的な見地からは一般的な治療の原則は極めて類似している。どちらも選択毒性というところにターゲットを置いている。 選択毒性の原理 宿主には存在せず、病原体や癌細胞にのみある特異的な標的物質を攻撃する。 宿主に似た物質であるが同一ではない病原体、癌細胞の標的物質を攻撃する。 宿主と病原体、癌細胞に共通するがその重要性が異なる標的物質を攻撃する。 これら3つに集約することができる。もし標的細胞や病原体が該当薬物に対して感受性があり、耐性が生じるのがまれで、かつ治療指数が高い(滅多に中毒量に達しない)のなら、単剤療法の方が多剤併用療法よりも望ましくない副作用を最小限に食い止めることができる。 悪性腫瘍の場合は腫瘍細胞はいくつかの種類のものが混在しており、更に耐性を得やすく、毒性のため投与量に制限があることが多く、単剤投与は失敗に終わることが多いため、多剤併用療法となることが多い。多剤併用療法も複数をやみくもに組み合わせればよいというものではなく、いくつかの重要な経験則がある。標的とする分子が異なる薬物、有効とされる細胞周期の時期が異なる物質、用量規定毒性が異なる薬物を併用するのが一般的である。さらにできるだけ相乗効果を得られる投薬を工夫する。このようにすることで、結果として最小の毒性で最大の結果が得られると考えられている。その結果、がんが耐性化を獲得する機会が最小になる。 また、近年、支持療法の進歩により、多くの抗がん剤において最大耐用量(英語版)(患者が耐えうる最大の投与量: MTD)をさらに増やすことができるようになったということが注目に値する。例えば、G-CSFの投与によって骨髄抑制からの回復をはかる時間を短くとることができるようになり、アロプリノールの投与によって、腫瘍崩壊症候群を抑制し、全身合併症を減少させることができるようになり、フォリン酸(ロイコボリン)の投与によってメソトレキセートの大量投与が可能になった。また、フォリン酸とフルオロウラシルの併用がフルオロウラシル単独投与よりも治療効果が高いということも分かってきた。効果の高い制吐剤が開発されることにより、治療中も食事摂取が可能な場合が増えてきた。さらに、治療効果とは関係はないが、オピオイドを駆使した疼痛対策や緩和医療の発達により患者のQOLも著しく高まったといえる。 感染症治療と抗がん剤投与は、原理がほぼ同じであるため、感染症学で多用されるPD(薬力学)、PK(薬物動態学)といった概念は腫瘍学でも有効であり、抗癌薬にもシナジーは存在し、脳腫瘍ではBBBがあるため使用薬剤は制限される。抗菌薬投与で髄液移行性が問題となったように、脳腫瘍に有効な抗がん剤は極めて少ない。非ホジキンリンパ腫は基本的にR-CHOP療法で治療されることが多いが、病変が脳の場合はR-CHOP療法は有効でなく、シタラビン大量療法(HD-AraC)やメトトレキセート大量療法(HD-MTX)といった治療が選択される。
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化学療法の原理
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「化学療法 (細菌)」の記事における「化学療法の原理」の解説
感染症、悪性腫瘍、自己免疫疾患の治療に化学療法という言葉は使われる。根本的な病因は異なるが、薬理学的な見地からは一般的な治療の原則は極めて類似している。どちらもターゲット(細菌ないしは癌細胞等)に対する選択毒性を効果発現の機序として挙げている。 選択毒性の原理 宿主には存在せず、ターゲットのみに存在する特異的な標的物質を攻撃する。 宿主に似た物質であるが同一ではないターゲットの標的物質を攻撃する。 宿主とターゲットに共通するがその重要性が異なる標的物質を攻撃する。 これら3つに集約することができる。もしターゲットが該当薬物に対して感受性があり、耐性が生じるのがまれで、かつ治療指数が高い(滅多に中毒量に達しない)のなら、単剤療法の方が多剤併用療法よりも望ましくない副作用を最小限に食い止めることができる。多くの感染症の場合は、これらの条件を満たすため、原則一剤投与となる。感染症治療で多剤併用療法となるのは、結核、ハンセン病、HIV、免疫不全時の感染症などがあげられる。結核菌やHIVは薬剤耐性を生じやすいため、3剤併用療法を行う必要がある。 また抗菌活性の大小だけでなくターゲットに薬剤が到達するかどうかを評価するPD(薬力学)、PK(薬物動態学)といった概念も化学療法では重要である。抗菌薬投与で髄液移行性が問題となったように、菌の感受性だけでなく治療部位によっては薬剤の体内動態も検討する必要がある。
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化学療法の原理
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上記のように感染症、悪性腫瘍、自己免疫疾患の治療に化学療法という言葉は使われる。根本的な病因は異なるが、薬理学的な見地からは一般的な治療の原則は極めて類似している。どちらも選択毒性というところにターゲットを置いている。 選択毒性の原理 宿主には存在せず、病原体や癌細胞にのみある特異的な標的物質を攻撃する。 宿主に似た物質であるが同一ではない病原体、癌細胞の標的物質を攻撃する。 宿主と病原体、癌細胞に共通するがその重要性が異なる標的物質を攻撃する。 これら3つに集約することができる。もし標的細胞や病原体が該当薬物に対して感受性があり、耐性が生じるのがまれで、かつ治療指数が高い(滅多に中毒量に達しない)のなら、単剤療法の方が多剤併用療法よりも望ましくない副作用を最小限に食い止めることができる。多くの感染症の場合は、これらの条件を満たすため、原則一剤投与となる。感染症治療で多剤併用療法となるのは、結核、ハンセン病、HIV、免疫不全時の感染症などがあげられる。結核菌やHIVは薬剤耐性を生じやすいため、3剤併用療法を行う必要がある。 悪性腫瘍の場合は腫瘍細胞はいくつかの種類のものが混在しており、更に耐性を得やすく、毒性のため投与量に制限があることが多く単剤投与は失敗に終わることが多いため多剤併用療法となる。多剤併用療法も複数もやみくもに組み合わせればよいというものではなく、いくつかの重要な経験則がある。標的とする分子が異なる薬物、有効とされる細胞周期の時期が異なる物質、用量規定毒性が異なる薬物を併用するのが一般的である。さらにできるだけシナジーを得られる投薬を工夫する。このようにすることで、結果として最小の毒性で最大の結果が得られると考えられている。その結果、がんが耐性化を獲得する機会が最小になる。 自己免疫性疾患に対する化学療法において、優れた選択性をもつものはまだ存在しない。そのため、全般的な免疫抑制を起こす免疫抑制剤が使用される。
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