創作過程執筆
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これらの作品の製作過程について、1979年6月号の「刀剣美術」誌に壱良は写真と共に以下のように執筆している。 目貫の製作ほどやっかいなものはない。表裏一対、陽と陰、同じようなものを2つ作らねばならない。脂台(やにだい)に並べて同時に少しずつ彫り進めることになる。唐獅子の製作で最も気を使うのは巻毛である。これは一発仕事、直しはきかない。毛彫鏨(たがね)を使い、台を回しながら慎重に彫っていく。 地金(じがね)は、金20、銀4の合金で、色合いは黄色だが、少し青みを帯びていることから「青金」と呼ばれる。純金より少し堅く、細かい打出しに適している。通常の装身具は、銅割りで、「赤金」と呼ばれ、真鍮程度の堅さである。 目貫の表は雄、裏は雌がおさまる。雄は口を開けた「阿」、雌は口を閉じた「吽」。目貫の龍の爪は3本、鱗は胴体は大きく、手足の方は小さく彫らなければならない。 幕末の装剣金工家、荒木東明の作品には鐔、縁頭、目貫などがあるが、中でも「粟穂」の彫刻を得意とする。東名の粟穂を模刻できないかと思い、これは鏨(たがね)を作ることから始めた。中心に1つ、周りに7つの丸穴を打ち、先にこれに合う丸い紋(粟穂8つがはいる)を並べて作っておき、粟穂鏨で打っていく。これに、小さい魚々子鏨(ななこたがね)で一粒一粒粟穂を補正しながら打っていった。 薇(ぜんまい)、笹の葉を鋤出彫(すきだしぼり)し、月と兎を透かし、最後に薇の根元に金細板を高肉象嵌したもの。透かしは金工用の糸鋸の刃で引き抜き、鑢(やすり)で仕上げた。耳は、鋤いた関係で角耳小肉となっている。櫃孔の責金(せきがね)は銅版で作り、金銷(きんけし:金粉で表面を塗装すること)した後、魚々子(ななこ)を打った。 ※[象嵌]とは、ある部分に別の素材をはめ込む技法。それが平面より高ければ高肉象嵌、平らに仕上げたものは平象嵌。 銅厚板を用いて、切り鏨で彫崩し製作したもの。眼球は純金線を入れ、魚々子鏨で押さえてある。 瓔珞(ようらく:仁王の胸飾り)他は金銷(きんけし)で、金高肉象嵌のように見せている。形は木瓜形、角耳小肉。 <銅の着色について> 銅の色上げは煮込み着色である。硫酸銅5.63グラム、緑青5.63グラムを乳鉢に入れ、細かく粉砕し、水1.8リットルを加える。鍔をよく研磨し、重層で脂分を落とし、大根おろしの汁(むらになりにくい)で洗い、先の液を銅の鍋で煮沸し、鍔を浸す。2~3分して一度上げてみて、まだらがなければそのまま一時間程度煮込んでやる。30分もすると赤色のよい色になる。2時間も煮込めば少々のことでは色は落ちない。
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