共役の長さと色変化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/04/15 08:34 UTC 版)
「ポリチオフェン」の記事における「共役の長さと色変化」の解説
共役ポリチオフェン類において、π系の拡張は、最も興味が持たれる性質、すなわち光学的性質の元となっている。共役系は近似的に「箱の中の電子」のシュレディンガー方程式の解として考えることができる。しかしながら、一般的なオリゴチオフェン系の吸収および蛍光スペクトルをより正確に予測するため、精密化されたモデルの開発が進められている。共役は芳香環上のπ軌道が重なり合うことによって発生するが、これはすなわち、チオフェン環どうしが同一平面上に存在する必要があることを意味する。 同一平面上にある数が共役系の長さを決定する。そして、共役系が長いほど隣接するエネルギー準位の差は小さくなり、結果として吸収スペクトルに長波長シフトが見られる。平面からのずれの原因には、合成上起こる結合の欠損や、特に立体障害の大きな側鎖による恒久的なものと、外部環境や結合の変化による一時的なものがある。骨格がねじれることによって共役の長さが減少し、エネルギー準位の差が大きくなる。これによって吸収ピークは短波長シフトする。 ポリチオフェンの有効共役長の最大値を決定するためには、立体的に規則ただしい配列と、決まった長さを持つポリチオフェンを合成する必要がある。可視領域の吸収帯は共役が長くなるにつれて長波長シフトするので、最大有効共役長は長波長シフトがそれ以上起こらなくなる点から計算することができる。ヘーヴェらによる初期の研究によると、有効共役長は11個の繰り返し単位にわたって広がっていると見積もられており、一方その後の研究では20単位であるとされている。さらに新しい報告では、大坪らは48および96量体のオリゴチオフェンを合成し、長波長シフトはその変化が小さい(72量体から96量体で 0.1 nm)ものの観測されていることから、有効共役長は96単位よりもさらに長い可能性があるとしている。 共役骨格のねじれ、およびそれに起因する共役長の減少と吸収帯のシフトはさまざまな外的要因によって起こり、溶媒、温度、電圧の印加、溶存イオンがその原因として挙げられる。ポリビニルアルコール水溶液中におけるポリ(3-カルボキシチオフェン)の吸収帯は pH 7 において 480 nm だが、pH 4 では 415 nm にシフトする。この現象は、カルボキシル基が部分的に脱プロトン化することによってポリビニルアルコールとの水素結合を生じるようになり、より圧縮されたコイル型の構造が形成されるためであると考えられている 。キラルなポリチオフェンはクロロホルム中で円偏光二色性を示さないが、クロロホルム/アセトニトリル混合溶媒とクロロホルム/アセトン混合溶媒中ではそれぞれ逆の円偏光二色性を示す。また、キラルなアミノ酸側鎖をもつポリチオフェンはpHと緩衝液の濃度によって吸収帯シフトと円偏光二色性の変化を示す。 温度変化による吸収帯シフトは、低温では平面状・ロッド型の構造をとっているものが、高温ではコイル型に変化するためである。例えば、ポリ(3-オクチルオキシ-4-メチルチオフェン)は25°Cで赤紫色だが150°Cでは淡黄色になる。吸収スペクトル上に等吸収点(吸光度が温度によらず一定である波長)があることから、ふたつの相が存在することが示される(これは同じ鎖の中にあっても、違う鎖の中にあってもよい)。温度による色変化を示すポリチオフェンがすべて等吸収点を持つわけではない。高度なレジオレギュラリティーを持つポリ(3-アルキルチオフェン)類 (PAT) では、低温状態において固体であって結晶状態と不規則相の間の変換が起こらないほど側鎖が十分に短いならば、温度の上昇に伴って短波長シフトが連続的に起こる[要出典]。 吸収帯のシフトは電圧の印加(エレクトロクロミズム)、アルカリ金属イオンの添加(イオノクロミズム)によっても起こすことができる。
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