公立図書館司書の業務
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/11 08:12 UTC 版)
まず図書館資料を選択する。図書館では購入、寄贈、所轄自治体からの移管などによって新しい資料の導入が行われる。その際、所属する館の特性、性格、利用者層に応じて、受け入れる資料の取捨選択を行う。利用者が一身上の都合で蔵書をまとまったかたちで寄贈することもまれではないが、すべてを蔵書として受け入れていては限られた書庫の空間を圧迫するので、専門知識によって受け入れて一時保存、あるいは半永久的に保存する資料として分別整理しなければならないし、受け入れを断る必要性も生じることがある。当然ながら寄贈図書群に対する整理を望まない寄贈者もいるので、不快感をもよおさせずに納得してもらう交渉術が必要である。 また既存の資料のなかにはあえてその図書館で永久的な保存を担わなくてもよいものもある。逆に地元の郷土資料や所轄自治体の発行したパンフレットなどは、かなり些細なものでも他の図書館に保存される可能性が低いので極力永久保存を心がける使命がある。さらにプライバシー保護などの観点から既存の資料は公開性の線引きを判断しなければならない。 こうして蓄積した資料は利用者の要求に応じて提供されなければならない。司書はその専門知識によって図書館資料を分類し、閉架書庫や開架の書棚に配架する。また利用者は図書館資料を利用したいと考えている分野に関して深い専門知識を持っているとは限らない。司書はその専門性に応じて利用者の要求を満たす分野の開架書棚を案内し、資料探索の指針を与えることができるし、利用者の要求の具体性が高ければ、特定のいくつかの資料を選抜して提示することも重要な業務である。あるいは、まだ購入していない資料の場合には新たに購入を行ったり、連携している近隣図書館から取り寄せたりすることも行われる。場合によっては専門雑誌の記事を大学図書館や国会図書館に複写を請求して取り寄せることもある。 司書の利用者に対する仕事はこうした利用者の要求があってはじめてそれに応じる受身のものだけではない。地域の特性に応じた資料の充実度や、世相に応じた関連資料群、新着資料などを掲示板や図書館内に設定されたギャラリー空間などにおいてアピールすることで、利用者の新たな需要を開拓することも行われる。さらに児童に対する読み聞かせなどの、学校教育を補完するような教育活動、地域出身作家などに関する特別展、企画展の企画、実行なども司書の業務に入ってくる。 資料の貸し出し、返却といったカウンター業務の単純作業部分は、かならずしも上記のような専門性を要求されないので、大規模で職員が潤沢にいる館のなかには司書を充てず非司書職員の担当としていることもある。しかし日本の多くの図書館はかならずしも潤沢なスタッフを抱えているわけではないし、多くの司書が利用者の傾向を肌で感じて専門業務に反映する重要な窓口としてカウンター業務を位置づけているため、貸し出し、返却事務に、勤務時間の多くを割いている司書が多い。そのため、日本社会では図書館の機能や司書の専門性が深く社会の必須の機能として根付いているとは言いがたい面もあり、かなりの数の利用者が司書を図書の貸し出しおよび返却の係員程度にしか見ていないということも現状ではある。 こうした専門的な活動は当然のことながら図書館の予算内で執行される。したがって司書はみずからの専門業務に必要な予算を計画し、それを地方公共団体などの設置機関に要求し、交渉を行わなければならない。ときにはその正当性を説明するために自治体の議会での説明を行う。 これらの業務における権限の範囲と守るべきルールは、船橋市西図書館蔵書破棄事件、広島県立図書館事件、山口県立山口図書館図書隠匿事件などでも議論が進み、特に船橋市西図書館蔵書破棄事件では市所有の蔵書であっても職員の独断的な評価や個人的な好みによって不公正な取扱いをしたときは、当該図書の著作者の人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法であるなどの判断が示されている。 詳細は「船橋市西図書館蔵書破棄事件」を参照
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