人面瘡(人面疽)
★1.人の顔の形をした腫れ物。腕・肩・膝などにできることが多い。
『かわいいポーリー』(星新一『悪魔のいる天国』) 船員の「おれ」はジプシーに頼んで、腕にキャベツのいれずみを彫ってもらう。それが女の顔に変り、盛り上がってくる。ナイフで2度切り落とすと、3度目に現れた顔は美人だった。「おれ」は女をポーリーと名づけ、キスをし、お菓子をたくさん与える。ポーリーはどんどん美しく、大きくなってゆく→〔乗っ取り〕3。
『瘤弁慶』(落語) 大津の宿で壁土を食べた男の右肩に、大津絵の弁慶が瘤となって現れる。瘤弁慶は日に3升の酒を飲み、大飯を食うので、男は蛸薬師へ治癒祈願に行く。帰りの夜道で大名行列に出会い、瘤弁慶と武士たちが喧嘩を始める。男が「お見逃しを」と詫びるが、大名は「夜の瘤は見逃せぬ」と言う〔*「夜の昆布(=「よろこぶ」に通じる)は見逃すな」ということわざがあった〕。
『ブラック・ジャック』(手塚治虫)「人面瘡」 人面瘡は一般に腹か膝にできるが、ブラック・ジャックに手術を依頼した患者は、顔全体が人面瘡になり、醜く腫れあがっていた。実はこの男は殺人嗜好症で、人面瘡ができている間だけ、殺人衝動が消えるのだった。
『酉陽雑俎』巻15-588 ある男の左腕に人面瘡があり、その口に酒をたらすと顔も赤くなり、食べ物は何でも食べた。医師の教えで金石草木あらゆる薬を与えると、貝母という薬草に対して人面瘡は顔をしかめ、口を閉じた。そこで口をこじあけ貝母の汁を注ぐと、数日して人面瘡は消えた。
★2.母親の胎内に双子ABがあったが、誕生以前に、Aの体内にBが吸収されてしまい、Aだけがこの世に生まれる。二十数年後、Bは人面瘡となって、Aの身体に現れる。
『人面瘡』(横溝正史) ある年の春頃、松代の右腋に腫物ができた。それはやがて野球のボールほどになり、眼・鼻・口がそなわって、松代の妹・由紀子の顔に似てきた。松代は「自分は以前に包丁で由紀子を刺した」と思い込んでいたので(*→〔夢遊病〕4)、「由紀子の呪いがこもった腫物だ」と、恐れる。金田一耕助が松代に、「この世に生まれなかった、あなたの双生児の姉妹の顔だ。切開手術をすれば問題ない」と教える。
*双子の一方が生まれない→〔双子〕5の『ブラック・ジャック』(手塚治虫)「畸形嚢腫」。
応声虫(水木しげる『図説日本妖怪大鑑』) 元禄16年(1703)、京の商家の息子・長三郎(12歳)の腹に、人間の口の形をした出来物ができた。出来物は人語を話し、口に入るものは何でも食べた。菅玄際という名医が、「応声虫のしわざであろう」と診断し、薬を与える。10日ほどたって、長三郎の肛門から、長さ1尺1寸の虫が出た。それは角が1本生えたトカゲそっくりの虫だったので、すぐ打ち殺した。4ヵ月ほどして、長三郎はもとどおりの身体に回復した。
*応声虫には別伝もある→〔腹〕5の『和漢三才図会』巻第85・寓木類「雷丸」。
『現代民話考』(松谷みよ子)10「狼・山犬 猫」第2章の1 中学生の女の子が、いたずらばかりする黒猫を殺した。数日後、その女の子の肩におできができ、日に日に大きくなって、やがて猫の顔になる。ある日、猫の顔のおできは、女の子の首にかみついて、首を食いちぎってしまった(場所不明)。
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