世界恐慌における対応の失敗
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/29 18:50 UTC 版)
「清算主義 (経済用語)」の記事における「世界恐慌における対応の失敗」の解説
世界恐慌が発生してもフーヴァーが政府の無作為を貫き、何ら有効な不況対策を行わなかった結果、アメリカでは恐慌が深刻化した。フーヴァーは「景気はそのうち回復する」という認識の下で大統領職を退くまで断固として緊縮財政と高金利政策を継続し、恐慌をひたすら悪化させた。アメリカが本格的に世界恐慌から立ち直ったのは、フランクリン・ルーズベルト政権下でのニューディール政策及び第二次世界大戦に伴う莫大な需要拡大を通じてであった。 また、同時期に日本に世界恐慌の波が押し寄せた際、首相であった濱口雄幸は立憲民政党両院議員評議員連合会の演説で「明日伸びむが為に、今日縮むのであります」と語り、短期的な痛みに耐えて企業の淘汰と産業の再編を行い、過去の不良を清算することが必要であるという清算主義の見解を示した。そして井上準之助蔵相と共に金解禁に踏み切り緊縮財政を行った。しかし、これが不況をさらに下押ししてしまい、昭和恐慌が発生した。日本が昭和恐慌から脱出したのは犬養内閣の下で高橋是清蔵相が行った、金輸出再禁止に伴う管理通貨制度への移行に加え、国債の日銀引き受けによる時局匡救事業や軍事予算の増額等の財政政策を通じてであった。このように日本の景気回復も、アメリカと同様に政府の積極財政による需要拡大が誘引である。 不況に陥ると、倒産・廃業・失業・賃下げが大規模に増加し、企業は投資や人件費を削減し労働者は消費を抑制する。その結果としてさらに総需要が縮小し、ますます不況が深刻化してデフレスパイラルに陥る。こうした合成の誤謬によって、不況下では有効需要の縮小に引きずられて財やサービスの生産の減少・停滞が続き、市場原理による自然回復もできなくなる。加えてバランスシート不況によって、企業は債務返済を優先するようになるため、投資が大きく減少して将来の成長余地も失われてしまう。 さらに、不況下で生き残るのは、純資産を多く保有している財務の健全性が高い企業であり、財務基盤が弱いベンチャー企業や、銀行からの借り入れを増やし積極的に投資を行っていた企業ほど、生産性や成長余地に関わらず、資金繰りの悪化等で潰れてしまうという結果となる。清算主義者の期待に反して、不良な企業だけが淘汰されるという結果にはならない。 このように清算主義は不況による経済の後退やそれに伴う社会不安の増大に対して、有効な解決策を持たなかった。そればかりか、自らの経済思想が引き金を引いて破壊的な官製不況を作り出し社会経済にショックをもたらしたため、後に登場するケインズ経済学によって厳しく批判された。 ポール・クルーグマンは、清算主義者の「数ある暴言」はすべて間違っていた、と評している。
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