ポアロの遺稿
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/08 15:37 UTC 版)
「ポアロが『第三の女』事件に関わる直前に完成させた」として知られているが、未発表だったもの。ポアロ・マードックが持参した。彼曰く「自分が死んだと思ったポアロが、母のシンシア宛てに送ってきた原稿」(実際に亡くなったのはシンシアだが、電報の誤りで、そう伝わった)。本文はタイプライターで打たれているが、署名は肉筆であり、ポアロ本人の署名とよく似ていた。 明智の見たところ、日本の原稿用紙にすると900枚近い分量で、クイーンは「もし本物なら、ニューヨーク・タイムズの編集長が100万ドル出すはずだ」と語っている。明智も、読み進むうちに「偽作だとしても、かなり出来が良い」、「本物だとしてもおかしくない」、「7対3で本物の可能性が高い」、と感想を述べている。今まで未発表だった理由については、「事件の合間に推敲を重ね、完成が遅れたのではないか?」と明智は推理している(読む前には、「アガサ・クリスティを批判しているので、出版社が難色を示したのでは?」とも想像した)。 各章の見出しが以下の様に修正されており、頭文字をつなげると「HE WILL KILL ME(彼が私を殺すだろう)」となる(第5章と第12章は原題のまま)。 Here is the best book(原題は My best friend) Endless story We have not "Alibi" In the mysterious affair Lovely story, lovely women Last case of murder King of "Secret Room" I don't like "Hard-Boiled"(原題は Egg is egg) Long long ago ! Letter to Eden Phillpots Mystery best 20 Everyman says "Adventure" 「本来は「will」ではなく、「would」とするのが文法的に正しいはず」と後に小林が述べたところ、明智は「12章しかないので4文字にしかできなかった」、「そもそもポアロの英語はブロークンだった」と説明している。原稿の日付は、亡くなる5日前のものだった。 内容に関しては、ポアロが1966年12月に明智へ送った手紙で、以下のように一部を明かしていた。 シェイクスピアとディケンズは尊敬するが、エドガー・アラン・ポーとアーサー・コナン・ドイルには不満があり、痛烈に批判した。 現時点で不当に低い評価を受けているアメリカの二人の作家について弁護している。 遺稿では、以下の点が明かされている。 第1章と第2章でポーとドイルが批判されている。 ガストン・ルルーの『黄色い部屋の秘密』を賞賛している。ただし、この点は明智も過去に聞かされたことがあり、「同じように作家論を聞いた人間がいる可能性もある。従って、偽造の可能性も残っている」と指摘している。 第1章はドイルを賛辞している。ただし、「シャーロック・ホームズは大した探偵ではなく、むしろジョン・H・ワトソンを生み出したことがドイル最大の功績」としている。 第5章では、アメリカの女流作家ルイーザ・オマレイを賞賛している。この章題は修正されていない。 第8章では、ハードボイルドを厳しく批判している。 第12章では、アルセーヌ・ルパンと作者のモーリス・ルブランを賞賛している。この章題も修正されていない(1972年の本シリーズ第2作『名探偵が多すぎる』では、ルパンと怪人二十面相が登場している)。 日本の作家は扱われていない。 文体に関しては、メグレが「自分(ベルギー生まれ)が英語を使う時と同じような間違いが散見される」としている(原稿、明智への手紙ともに)。読み進むうちに、明智も同じ感想を持ったが、「ヘイスティングズの記録を読めばマネできる」とも述べた。 最終的に、この原稿はメグレが置き忘れたため、別荘とともに灰になる。最後に小林は、「メグレは災いの種になる、と思い、わざと置いてきたのではないか?」と疑問を述べたが、明智は明確な返答を避けた(それ以前に、「なぜヘイスティングズに送らなかったのか?」と明智に尋ねたところ、「今は話題にしないように」と釘を刺されている)。
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