スペースラブ実験
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/03/10 23:12 UTC 版)
Crystal Growth Furnace (CGF)は、微小重力での結晶成長を実験する再利用可能な施設である。1600℃までの温度で、最大6つのサンプルを自動で成長させられる。さらに、手動のサンプル交換で追加のサンプルを成長させることもできる。方向性凝固法と蒸気輸送法の2つの結晶成長法が用いられる。重力の影響のない結晶成長の組成や原子構造を分析することで、凝固の際の流体の流れと結晶成長の欠陥の相関に関する洞察を得ることができる。CGFでは、計画より3つ多い7つのサンプル286時間成長させられ、その中には2つのガリウムヒ素半導体結晶もあった。ガリウムヒ素結晶は、高速デジタル集積回路、光電子集積回路、固体レーザー等に用いられる。特別に設計された曲げやすいグローブボックスを用いてサンプルの交換に成功し、追加の実験が可能となった。 Surface Tension Driven Convection Experiment (STDCE)は、最新の装置を使用して、微小重力環境での多様な条件での液体表面の表面張力による流れに関する定量的データを取得した初めての宇宙実験である。液体表面での微妙な液体の流れを産み出すには、非常にわずかな表面温度の違いで十分である。熱キャピラリ流と呼ばれるこのような流れは、地球上の液体表面には存在する。しかし、地球上の熱キャピラリ流は、ずっと大きな浮力による流れに隠されるため、研究するのは非常に難しい。微小重力環境では、浮力による流れは大幅に減少し、熱キャピラリ流の研究が可能となる。STDCEでは、液体の曲表面での熱キャピラリ流を初めて観測し、表面張力が流体の動きの強力な原動力となっていることを示した。 Drop Physics Module (DPM)は、容器による干渉を受けずに液体の研究を可能とする。地球上の液体は、中に入れる容器の形になる。さらに、容器を作る材料が液体に化学的に混入する可能性がある。DPMは音波を利用し、チャンバの中央に液滴を保持する。このように液滴を研究することで、非線形動力学、表面張力波、表面レオロジー等の分野の基礎的な流体物理学理論を試験することができる。音波を操作することで、液滴を回転、振動、融合させたり、さらには分裂させることもできる。他の試験では、移植治療での利用が期待される、半透膜内に生細胞を封入する技術の確立のため、液滴の中に液滴がある複合液滴が初めて作られた。 グローブボックス施設は、もしかするとここ数年で導入された新しい実験装置の中で、最も多用途なものかもしれない。これにより、毒性、刺激性、感染性のものを含む、多くの異なる種類のサンプル、材料を直接触れずに扱えるようになった。グローブボックスは、クリーンなワークスペースに覗き窓がついており、操作用のグローブが組み込まれている。陰圧、濾過システム、ワークエリアにサンプルを出し入れするためのエントリードアでワークスペースの清浄さを保っている。主な用途は、タンパク質結晶の混合と成長の観察である。グローブボックスを用いて、成長の最適化のため、定期的に組成を入れ替えることが宇宙空間で初めて可能となった。グローブボックス内で行われた他の試験には、ろうそくの炎、繊維の引っ張り、粒子の分散、液体の表面対流、液体/容器の界面に関する研究が含まれていた。グローブボックスでは、16の試験とデモが行われた。また計画になかったGeneric Bioprocessing Apparatusの運用のバックアップの役割も果たした。 スペースラブで行われたその他の実験には、生体材料を扱う装置であるGeneric Bioprocessing Apparatus (GBA)がある。GBAでは、数mlの中で132の実験が行われた。この装置では、生細胞、廃棄物処理に用いられる微生物、アルテミアとスズメバチの卵の発達、ガン研究に用いられる医学試験モデル等が研究された。調査したサンプルの1つであるリポソームは、医薬品のカプセル化に使用できる球状構造で構成されている。これが適切に形成できると、腫瘍等の特定の組織に医薬品を届けるのに使えるようになる。 Space Acceleration Measurement System (SAMS)では、ミッション中の微小重力を測定する。これらのデータは、実験データに見られる影響が外乱によるものか否かを確認するのに非常に貴重である。SAMSは、20回以上のスペースシャトルのミッションで使われ、さらに3.5年間、ミールに置かれ、新しいバージョンのものが国際宇宙ステーションでも使われている。
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