スパイ事件
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/08/19 07:08 UTC 版)
「ベルバレー・ディッキンソン」の記事における「スパイ事件」の解説
1942年、戦時検閲により検出されたある手紙がFBIの目を引いた。オレゴン州ポートランドの女性からアルゼンチンのブエノスアイレスに送られたとされる手紙の話題は、「素晴らしい人形の病院」(wonderful doll hospital)に関するもので、差出人の女性は修理の為に「3つの古い英国人形」(three Old English dolls)を送ったという。手紙ではまた、「漁網」(fish nets)と「風船」(balloons)に関しても触れていた。FBIの暗号解読者らの検討の結果、「人形」は軍艦を、「病院」は西海岸の造船所を意味し、「漁網」や「風船」も沿岸防衛など西海岸に関する何らかの重要情報であると考えられた。 この手紙を手がかりに、FBIではスパイ計画に関する調査を開始した。同じ頃、ブエノスアイレス・オイギンス通り2563番地(2563 O'Higgins Street)のイネス・ロペス・デ・モリナリ(Señora Inés López de Molinali)なる人物に宛てた4通の手紙が投函されていた。これらは宛先不明として送り返されたが、実際にはFBIによって一時回収され、内容が確認されていた。4通の手紙には別々の名前が使用されていた。その内容のいずれも差出人らの実際の趣味や生活に沿ったもので、署名もよく似ていたにも関わらず、4人ともがアルゼンチンへ手紙を送ったこと自体を否定した。 例えば手紙のうちの1通はオハイオ州スプリングフィールドのメアリー・ウォレスが差出人となっていたが、消印はニューヨークのもので、ウォレス自身は一度もニューヨークを訪れた事はなかった。この手紙の話題は人形に関する事柄だったが、その中に次のような一節があった。 「ショー氏は病に倒れていたものの、まもなく仕事に復帰するだろう」(Mr. Shaw, who had been ill but would be back to work soon.) これはアメリカ海軍の駆逐艦USSショーの情報と一致した。USSショーは真珠湾攻撃の折に大破した為に西海岸にて修理を受けており、まもなく太平洋艦隊に復帰する予定だった。 同年8月、FBIはまた別の手紙を入手した。差出人はコロラド州コロラドスプリングス在住の女性だったが、消印はカリフォルニア州オークランドのものだった。この手紙は2月に書かれたとされ、7つの人形について書かれていた。その人形は両親および祖父母、3人の子供を模した「7つのよく出来た中国人形」であったという。FBIではこの手紙がメア・アイランド海軍造船所への船団入港について書かれたものだと判断し、また軍事上の機密に該当しうる情報が含まれていると推測した。 FBIでは同じ女性を差出人とするもう1通の不審な手紙の入手にも成功した。この2通目の手紙は5月にオレゴン州ポートランドから差し出された事を示す消印があり、「シャム寺院の踊り子の人形」("Siamese Temple Dancer" doll)をその話題としていた。 それはすっかり壊れて、つまり真ん中から裂けていました。けれど、今は治して頂いたので、私はすっかり気に入っています。このシャムの踊り子の相方が手に入らなかったので、私は小さい普通の人形を2人目のシャム人形に仕立て直しています。"...[I]t had been damaged, that is tore in the middle. But it is now repaired and I like it very much. I could not get a mate for this Siam dancer, so I am redressing just a small plain ordinary doll into a second Siam doll ..." 暗号解読者らの検討の結果、この文章は「中央に雷撃を受け空母が大破。しかし現在は修理されている。同型艦の調達は行われず、別の軍艦を空母に改装しつつある。」といった意味であると推測された。この情報はミッドウェー海戦の折に雷撃を受けた空母USSサラトガの損傷に一致し、同艦はサンディエゴ海軍基地に向かう前にピュージェット・サウンド海軍造船所にて修理を受けていた。 3通目の手紙はワシントン州スポケーン在住の女性を差出人としており、消印はシアトルのものであった。この手紙は「フラ・スカートをはいたドイツのビスク人形」(German bisque doll, dressed in a hula grass skirt)を話題としており、これの修理が2月頃に終了する旨を知らせる内容であった。FBIは海軍当局に確認を取り、真珠湾で損傷した艦船がピージェット湾にて修理を受けており、これらが手紙にある通り2月頃に修理を終える見込みであるとの情報を得た。 筆跡鑑定の結果、検出された不審な手紙の署名はいずれも実物を書き写した偽署名であることが判明する。また、それぞれの手紙は異なるタイプライターでタイプされていたものの、文章の特徴は全ての手紙が同一人物によって作成された事を示していた。
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