ジャスモン酸類シグナル伝達機構
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/10 09:39 UTC 版)
「ジャスモン酸類」の記事における「ジャスモン酸類シグナル伝達機構」の解説
一般的に、ジャスモン酸類 (JA) シグナル経路中の段階はオーキシンシグナル伝達のものに酷似している。最初の段階はプロテアソームによって分解されるよう基質にユビキチンを結合させるE3ユビキチンリガーゼ複合体から成る。2番目は生理的変化に影響する転写因子を利用する。この経路における鍵分子の一つは、JAシグナル伝達のオン-オフスイッチとして働くJAZタンパク質である。JAが欠乏すると、JAZタンパク質ファミリーは下流の転写因子に結合し、それらの活性を制限する。しかしながら、JAあるいはその生物活性類縁体の存在下ではJAZは分解され、ストレス応答に必要な遺伝子発現に関わる転写因子が遊離する。 null coi1 ミュータント植物ではJAZの分解が起こらないため、COI1タンパク質がJAZの分解を媒介していると考えられている。COI1は高度に保存されたF-boxタンパク質(英語版)に属し、基質をE3ユビキチンリガーゼSCFCOI1へと導く。最終的に形成されるこの複合体はSCF複合体(英語版)として知られている。これらの複合体はJAZと結合し、プロテアソームによる分解の対象とする。しかしながら、JA分子群の広いスペクトルを考えると、全てのJA類縁体がこのシグナル経路を活性化する訳ではなく、この経路に関与するJA分子の範囲は不明である。これまで、7-iso-JA-IleのみがCOI1が媒介するJAZ11の分解に必要であることが示されている。7-iso-JA-Ileならびに構造的に似ている類縁体はCOI1-JAZ複合体に結合することができ、ユビキチン化およびそれによって起こる後者の分解を促進する。 この機構モデルによって、COI1がJAシグナルの細胞内受容体として働いている可能性が高まる。最近の研究では、COI1-JAZ複合体がJAを認知する共存受容体 (co-receptor) として作用していることが明らかにされたことによってこの仮説が裏付けられた。具体的に、7-iso-JA-IleはCOI1中のリガンド結合ポケットならびにJAZ中の保存されたJasモチーフの20アミノ酸部位の双方に結合する。このJAZ残基はCOI1のポケットの栓として作用し、7-iso-JA-Ileをポケットに結合した状態に保つ。加えて、COI1とイノシトール5リン酸 (InsP5) との共精製とそれに続くInsP5の除去実験によって、InsP5が共存受容体にとって必須の要素であり共存受容体複合体を強化する役割を果していることが示唆されている。 JAZから解放されると、転写因子は特異的なJA応答に必要な遺伝子を活性化する。この経路で働く最も研究された転写因子はMYCファミリーに属する。MYCファミリーは塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックス (bHLH) DNA結合モチーフが特徴である。これらの因子(MYC2, 3, 4)は相加的に作用する傾向がある。例えば、一つのmycのみを欠損した植物は正常な植物よりも昆虫の接触に対してより感受性を示すようになる。3つ全てのmycを欠損した植物はcoil1ミュータントのように傷害に対して感受性となる。この植物はJA応答性を全く示さず、接触に対する防御を開始することができない。これらのMYC分子は機能を共有してはいるが、これらの発現様式や転写機能は大きく異っている。例えば、MYC2はMYC3およびMYC4と比較して根の伸長により大きな影響がある。 加えて、MYC2はループバックしJAZの発現レベルを制御する(ネガティブ・フィードバック・ループ)。これらの転写因子は全てJAシグナル伝達後のJAZレベルに異なる影響力を有している。JAZレベルは同様に転写因子および遺伝子発現レベルに影響する。
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