ジャスモン酸類の役割
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/10 09:39 UTC 版)
「ジャスモン酸類」の記事における「ジャスモン酸類の役割」の解説
ジャスモン酸類 (JA) は植物において多くの異なるプロセスを制御しているが、傷害に対する応答における役割が最もよく理解されている。機械的な傷害あるいは摂食に続いて、JA生合成が速やかに活性化し、適切な応答遺伝子が発現する。例えばトマトでは、傷害によって昆虫の腸における葉の消化を阻害する防御分子が産生される。JAシグナル伝達の間接的結果としてはJAに由来する化合物の揮発分放出がある。葉に存在するMeJAは近くの植物に空中を通じて移動し、傷害を受けていない植物にも傷害に対する防御反応を引き起こす。 防御における役割に続いて、JAは細胞死および葉の老化にも関係している。JAは老化に関わる多くのキナーゼや転写因子と相互作用する。JAはまた、活性酸素 (ROS) の集積を誘導することによってミトコンドリアによる細胞死を誘導する。これらの化合物はミトコンドリア膜を崩壊させアポトーシス(プログラム細胞死)を引き起こす。植物は自ら細胞死を誘導することによって感染などがそれ以上広がらないようにしていると考えられる。 JAおよびその類縁体はまた、植物の発生、共生や以下の過程にも関与している。 JA過剰発現ミュータントの初期の研究によって、JAが根の伸長を阻害することが発見された。この現象の機構はまだ明らかにされていないが、COI1依存性シグナル伝達経路のミュータントでこの阻害が現象する傾向が示されることから、COI1経路が根の伸長の阻害においてどうも必須であることが明らかにされている。 JAは花の発生において多くの役割を果たしている。ArabidopsisのJA合成あるいはJAシグナル伝達のミュータントは通常発達の遅れによって雄性不稔性を示す。興味深いことに、Arabidopsisで雄性不稔性を促進する同じ遺伝子がトマトでは雌性不稔性を促進する。12-OH-JAの過剰発現もまた開花の遅れを引き起こす。 JAおよびMeJAは非休眠種子の発芽を阻害し、休眠種子の発芽を刺激する。 高レベルのJAは貯蔵タンパク質の蓄積を促す。植物貯蔵タンパク質をコードする遺伝子はJA応答性である。具体的には、JA類縁体のツベロン酸(12-ヒドロキシ-epi-ジャスモン酸、tuberonic acid, TA)は塊茎 (tuber) の形成を誘導する。 JA類は植物と微生物との共生においても役割を果たしている。しかしながら、その正確な役割は未だ不明である。JAはマメ科植物と根粒菌との間のシグナル交換と根粒形生制御を制御していると現在考えられている。一方、JAレベルの上昇は菌根植物において炭水化物の分配とストレス耐性を制御していると考えられている。 12-ヒドロキシジャスモン酸グルコシドはアメリカネムノキ (Samanea saman) の就眠運動をCOI1-JAZ経路非依存的に制御している。
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