コンピュータ解析と破壊実験
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/12 03:58 UTC 版)
「日本航空123便墜落事故」の記事における「コンピュータ解析と破壊実験」の解説
圧力隔壁や垂直尾翼の破壊過程を検証するため、コンピュータ解析と模型実験を柱に行うこととした。事故調内部からも「せめて、圧力隔壁だけでも実物大の破壊実験をやらなければ、世間を納得させられないのではないか」という意見もあったが、事故から2年以内に報告書を公表できないこと、費用対効果に見合わないことなどから断念された。 コンピュータ解析は有限要素法により強度計算を行うこととし、「Nastran」を使用した。三菱重工名古屋航空機製作所のコンピュータを借り、詳細な設計データはNTSBを通じてボーイングに提供を要請した。ボーイングは協力的でほとんどのデータを提供したが、その数は1万枚にも及んだ。 圧力隔壁の有限要素法による強度計算は、圧力隔壁に格子点をつけ、格子点を囲った区画(メッシュ)ごとに材料特性、強度などのデータを入力していく。客室の空気圧が上昇すると機体がわずかに膨らみ、圧力隔壁もゆがみが発生するため、機体部分も有限要素法にかけて計算を行った。メッシュを細かくすれば精度が上がるが、作業量も増えるため格子点の設定は試行錯誤したという。 コンピュータ解析は、圧力隔壁の他、垂直尾翼、補助動力装置(APU)防火壁付近についても行った。その結果、圧力隔壁から漏れ出た高圧の空気が垂直尾翼に瞬時に充満し、垂直尾翼の背骨にあたる「トルクボックス」の外板が剥がれたのが垂直尾翼の破壊の始まりだったことが判明した。 「トルクボックス」(正しくはアフト・トルクボックス)とは垂直尾翼の構造物で、四角く細長い筒である。尾翼はボックス・ビーム構造 (box beam structure)で作られていて、桁 (spar)、小骨 (rib)、縦通材 (stringer)、外板 (skin)で構成される。尾翼は小骨が積み重なって、縦通材で外板を包み、桁でつなぐトルクボックスを構成することで翼に加わる捩れを分担する。 1986年(昭和61年)6月25日、航空宇宙技術研究所調布飛行場分室において、コンピュータ解析結果の検証のため、トルクボックスを対象とした破壊実験を行った。破壊実験には事故調の調査官の他、立会人としてアメリカ連邦航空局 (FAA)の駐在官らも参加した。 実験は、トルクボックスを最上端と真ん中からやや下に当たる部分の二つを用意し、3台のコンプレッサーで空気を送り込むことにより行われた。最初にリベットが飛び始めたのは最上部のトルクボックスで、内圧を3.88psiまで上げた時だった。4.5psiまで上げるとコンプレッサーで空気を送れなくなるほど破壊された。下部のトルクボックスは内圧が5.5psiになるまで破壊が始まらないことが実験で確認された。 一方、コンピュータ解析でAPU防火壁付近は2.2psi程度で破壊が始まることがわかったが、するとAPUの脱落した部分から空気が出て、垂直尾翼を破壊する4.5psi以上の内圧が残されていたのかとの疑問が出てくる。この問題は、空気力学の専門家が機体全体の空気の流れを解析することにより検証することとした。機体を8つに区分けし、圧力隔壁の破壊の開口部により、空気の流れがどのように変化するかを計算した。計算の結果、圧力隔壁の開口部の大きさにより、圧力隔壁破壊後0.04~0.09秒後でAPU防火壁が壊れ始め、垂直尾翼が壊れ始めるのはその0.2秒後であることが分かった。そして事故機は圧力隔壁が壊れてからわずか0.3秒ほどで、APU、垂直尾翼が次々と破壊されるとした。 この計算結果は、デジタルフライトデータレコーダー(DFDR)では異常発生時、機体が11トンの力で前方に押し出された後、下に押し下げられているが、計算により導き出された破壊順序と極めてよく一致した。 機体最後部の破壊プロセス トルクボックス破壊過程 試験供試体及び試験装置の配置状況 試験装置の概要 試験供試体の部位(供試体No.1、供試体No.2) 後部圧力隔壁損壊時における機体全体の空気流出(8室分割によるシミュレーション)
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