カービングスキーによる再発見
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/17 16:54 UTC 版)
「ビンディング」の記事における「カービングスキーによる再発見」の解説
スキーにおいてプレートの有効性が再認識されたのは、1990年代である。高速系競技では雪面の細かい凸凹とスキー板がぶつかったときの細かい振動がスキーヤーに返ってくることがあり、それはスキーヤーの操作ミスを引き起こして事故や速度低下の要因となる。そのような滑走に有害な振動を低減させる工夫のひとつとして、板に金属製プレートを固定し、その上にビンディングを取り付けることが考案された。この時点でのプレートはもっぱら本格的な競技スキーヤーのみのためのものであった。 しかし、ほどなくして、プレートの高さと硬さがカービングターンにとって有効であることが見出された。その有効性のひとつは雪面とスキーブーツの接触抑止である。ブーツの側面が雪面とぶつかることは、減速要素となるとともにスキー操作を誤らせる要因ともなるが、プレートを利用するとスキーブーツが雪面から遠くなり接触を防ぐことができ、脚はターン内側へより大きく傾けることができるようになる。もうひとつの有効性は、てこの原理により雪面に板を食い込ませやすくなることである。硬い雪面にスキー板を食い込ませようとした場合、力点となるスキーヤーの足裏がエッジから遠くなるほど、大きい力をかけることができるようになる。こうした知見とカービングスキーの一般化に伴って、プレートの利用も一般スキーヤーにまで広がることになった。一方、プレートを高くし過ぎることは、転倒や操作ミスの際に本来とは異なる場所を支点とするてこの応力がスキーヤーの脚にかかることにもつながり、実際に事故も起きている。そのため、現在ではアルペン競技でのプレートの高さについて、雪面からの高さで制限を設けている。 プレートはハードブーツのスノーボードにおいても使用されている。プレートの利用によりカービングターンがはるかに容易となるのは、スキーと同様である。 技術系競技用のプレートや高速滑走用以外の一般スキーヤー、スノーボーダー向けのプレートには、求められる柔軟性や重要性が異なり、重い金属製ではなく、軽いプラスチック製、あるいは複数の素材を複合したプレートが用いられる。また、エクストリーム・カービング(英語版)のような、カービングターンのみを目的とした滑走では、高さを稼ぐことを主眼として木製のプレートが使われることもあった。これは、加工や成型が容易であり小規模な企業や個人でも製作が可能であったからである。 プレートとスキー板の固定方法は多様で、前後2ヶ所で固定する場合、中央あるいは前後のいずれか1ヶ所のみを固定する場合、前後のビンディング付近のみにプレートを付ける場合などがあり、さらに2ヶ所固定の場合でも、片方は完全な固定ではなくスキー板のたわみにあわせて可動するものもある。これらの取り付け方法は、スキー板のたわみを阻害しないためのさまざまな工夫において行われている。 プレートの利用が一般化するにつれて、スキー板の各メーカーも設計段階からプレートの利用を前提とした設計をし、プレートを取り付けた状態でスキー板を販売するようになった。これには、プレートが完全にスキー板と一体となっている場合も含む。こうした一体販売は、技術的な長所の追求とともに、スキー板メーカー以外のサードパーティのプレートを買わせない、という販売戦略の面も伴う。 なお、次の場合ではあえてスキー板にプレートを付けないケースがある。 モーグル競技 滑走中、てこの原理の活用の裏返しとして、ターンに必要な脚の動作が大きくなる事から、早い切り返しを多用した細かいターンが要求されるモーグル競技に不向きであるため。 山岳スキー登攀時など少しでも荷物を軽くしたい状況においては、プレートによって重量が増える事が不利となるのが最も重要な理由。 ファットスキーなど幅広のスキー板で滑走する場合、すでにスキー板の幅がスキーブーツの幅よりも広くなっていればプレートが無くても雪面とスキーブーツが接触しないため、プレート装着が敬遠される。 柔らかい雪が多いゲレンデ外(オフピステ)の斜面を滑る事が多いので、エッジよりもスキー自体のたわみ(特にロッカーやツインロッカーとなっている板)でターンする事が有効とされ、プレートによるてこの原理の効果が得られにくい。上記2に通じるが、柔らかい雪の滑走下ではプレートによるスキーブーツと雪面との接触防止効果も得られにくいゆえに、このケースでもプレートの意味を持たない。 アルペン競技 アルペン競技についてはFISやSAJによる規定があり、2019/20シーズンのものでスキー板+プレート+ビンディングの厚さ合計が50mm以下と定められている。そのため、ビンディングによってすでに高さが付いて、プレートを付けると厚さ制限を超えてしまう場合では取り付けない事がある。 そのほか、一般のスキーでも、プレートが導入される以前からのスキー歴が長いスキーヤーの場合、プレートを付ける事による滑走感覚の変化を嫌って取り付けない事がある。
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