アシア属州総督とプブリウス・ルティリウス・ルフス裁判
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「クィントゥス・ムキウス・スカエウォラ (紀元前95年の執政官)」の記事における「アシア属州総督とプブリウス・ルティリウス・ルフス裁判」の解説
スカエウォラは紀元前90年代にアシア属州の総督を務めたが、その時期に関しては議論がある。すなわち、法務官就任時(紀元前98年ころ)、プロプラエトル(前法務官)として(紀元前97年頃)、あるいはプロコンスル(前執政官)として(紀元前94年) である。スカエウォラのレガトゥス(副官)は非の打ちどころのない評判を持つ執政官経験者のプブリウス・ルティリウス・ルフスであった。年長のルフスは実際には全権力を彼の手に集中させていたと考えられている。何れにせよ、評判の良かったスカエウォラとルフスが東方に派遣されたのは、ポントス王ミトリダテス6世との戦争の危険が高まっている中で、アシア属州の事情を改善し、現地民のローマへの忠誠心を高めるためであったと憶測される。あるいは彼らの任務の目的は、ローマによる地方支配の性質を根本的に変え、搾取から協力へと移行することであったかもしれない。 二人は、前総督と共謀して多額の金を稼いでいた徴税請負人(主として騎士階級)の権利を整理した。また公平な法廷を運営することで、彼らは「すべての法的策略から属州の人々を解放した」。徴税請負人と属州住民の利益が衝突する場合には、二人は後者に有利な決定を下すことを恐れず、有罪者に損害賠償を言い渡した。違法な処刑の事実が明らかになった場合には、同様の処罰を課することもあった。シケリアのディオドロスによると、ある徴税請負人の代理人は奴隷であり、その主人に対して徴税利益で解放される契約をしていたが、徴税前に総督の命令で死刑になったという。 ローマ人が関わらない事件については、ギリシア人が自身の法律に従って裁くことが保証された。すべての行政官は自分の費用を支払わなければならなかった。これらすべての措置は、一般的な緊縮政策と相まって、属州の経済状況を大幅に改善した。そのため、地元の人々はスカエウォラに敬意を表して年に一度の祭り、ムキイを開催した。ミトリダテスは紀元前89年から88年までアシア属州を占領したが、この祭りをやめさせることはなかった。元老院は特別決議により、「以後、スカエウォラを、この地方に赴任する総督の公務遂行の模範とする」と宣言した。 スカエウォラがアシア属州に滞在したのは9か月間で、ルフスを残してローマに戻り、新しい総督を待つことになった。このような模範的な属州支配は、一部の人間の利益を損なうこととなり、ローマに戻ったルフスは権力乱用罪で裁判にかけられた。告発したのはアピキウスという人物で、浪費家として知られていた。当時ルキウス・リキニウス・クラッススとマルクス・アントニウス・オラトルという最高の弁論家がいたが、ルフスはどちらにも弁護を依頼せず、自分で自分を弁護することを選んだ。ただ、甥であるガイウス・アウレリウス・コッタとスカエウォラのみが、短い弁護演説を行った。スカエウォラはルフスの弁論に「数語」を加え、「彼らしく洗練された分かりやすい演説をしたが、この種の大規模な裁判で要求される力強さと巧みさを欠いていた」。判決が下された後、ルフスは、彼が収奪したとされるアシア属州に亡命した。誰もスカエウォラを裁判にかけようとはしなかった。この出来事は従来紀元前92年のことと考えられてきた。 この裁判の理由、またスカエウォラが告訴されなかった理由に関しては様々な意見が出されている。元老院階級と騎士階級の対立と見れば、この裁判は騎士階級の人物が著名な元老院階級の人物を有罪とした最初の裁判であることが注目される。告訴側は自分たちの能力を示したかっただけであり、ノウス・ホモ(新人)であるルフスは、ノビレス(新貴族)であるスカエウォラよりも攻撃しやすかった。一方で元老院内の対立と見れば、ルフスはメテッルス派の著名なメンバーであり、従ってメテッルス派への打撃であった。告訴側は比較的中立な政治家でマリウスの従兄弟でもあるスカエウォラを攻撃する意図はなかった。アシア属州に利権を持つ元老院議員達が団結してスカエウォラとルフスに対抗したのかもしれない。その中にはスカウルス、マニウス・アクィッリウス、また マリウス本人もいただろうし、クラッススも凱旋式を阻止された恨みから、告発側を支持したのかもしれない。
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