コンニャク 食用

コンニャク

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/31 05:27 UTC 版)

食用

芋の部分を食用にできるがサトイモ科の多くの植物同様シュウ酸カルシウムの毒性が強く生食は不可。食用とするためには茹でてアルカリ処理を行うなどの毒抜き処理が必須である。蒟蒻の原料となるコンニャクイモの2018年度(平成30年度)の日本での収穫量は55,900t。国内の主産地は群馬県 (93.2%) で、第2位栃木県 (2.7%) 、第3位茨城県 (1.4%) と続いており、日本では約97%が北関東で生産されている[5]。世界的な生産量は中国が圧倒的に多く、芋もしくは粉砕した粉末状の形で流通しており日本にも大量に輸入されている。

基本的な毒抜きと蒟蒻の製法は芋を粉砕して粉にし、とともにこねた後に石灰乳(消石灰を少量の水で懸濁したもの[6]。水酸化カルシウム水溶液)、炭酸ソーダ(炭酸ナトリウム)水溶液、または草木の灰を水に溶いたものを混ぜて煮沸して固めたものが蒟蒻として食用にされる。日本だけでなく中国ミャンマーもほぼ同じ方法で食用にする。元々はそちらの料理であったとされ日本へは伝来したものと見られている。時期は諸説あり、飛鳥時代に医薬として[7]仏教と共に伝来した説[8]や縄文時代に伝来した説もある。鎌倉時代までには食品として確立し、精進料理に用いられるようになったと見られている。

粉末には2種類あり、球茎を粉砕した荒粉とマンナンを精製した精粉に分かれ、コンニャク製造の際は双方を混合して用いる。江戸時代中期の1776年(安永5年)、水戸藩那珂郡山方村農民の、後に苗字帯刀を許された中島藤右衛門(なかじま とうえもん)(1745年-1825年)が乾燥した球茎が腐らないことにヒントを得て、粉状にすることを思いついたとされる[9][10][11]

一般的な蒟蒻は、副素材としてひじきアラメヒトエグサなどの海藻粉末を加えて色をつける[12]江戸時代に製粉法が開発されて白い蒟蒻を作ることが可能になったが、蒟蒻らしくないと評判が悪かったため、意図的に色をつけるようになった。形状や調理法は様々なものがある。各地の蒟蒻は後節を参考。

栄養価

板蒟蒻、生いもコンニャク[13]
100 gあたりの栄養価
エネルギー 29 kJ (6.9 kcal)
3.3 g
食物繊維 3.0 g
0.1 g
0.1 g
ミネラル
ナトリウム
(0%)
2 mg
カリウム
(1%)
44 mg
カルシウム
(7%)
68 mg
マグネシウム
(1%)
5 mg
リン
(1%)
7 mg
鉄分
(5%)
0.6 mg
亜鉛
(2%)
0.2 mg
マンガン
(2%)
0.05 mg
セレン
(0%)
0 µg
他の成分
水分 96.2 g
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。
精粉100g中の食物繊維[13]
項目 分量
炭水化物 85.3 g
食物繊維総量 79.9 g
水溶性食物繊維 73.3 g
不溶性食物繊維 6.6 g
精粉コンニャク100g中の食物繊維[13]
項目 分量
炭水化物 2.3 g
食物繊維総量 2.2 g
水溶性食物繊維 0.1 g
不溶性食物繊維 2.1 g

蒟蒻の成分は96 - 97%が水分であり、それを除くと主成分はグルコマンナンである。グルコマンナンはグルコースマンノースが2:3-1:2の比率で重合した多糖類の一種で、「コンニャクマンナン」とも呼ばれる。ヒトの消化管ではほとんど消化されず、腸内微生物により一部脂肪酸に変換されて利用される。このため、カロリーが極めて低い食品(100gあたり5 - 7キロカロリー)の1つとされ、摂取カロリーを制限する必要のある場合の食品素材としてよく利用される。

蒟蒻に含まれるグルコマンナンなど食物繊維は、腸内の有害物を排出し、血圧やコレステロールを下げる働きもあるといわれている[6]。グルコマンナンとグルコースを同時に摂取した場合、グルコマンナンには血糖値上昇抑制効果があった。グルコマンナンの粘性によるグルコースの拡散抑制が影響した可能性があるが、セルロースプルランでは効果が認められなかった。なお、プルランは粘性が高いものの人体の消化酵素で消化されてしまう[14]

蒟蒻のカロリーは300 g(1枚)で21キロカロリーと、非常に低い。四つ切りの蒟蒻おでんに2gの練り辛子をつけて食す場合、つけた練り辛子のほうがカロリーが高い(辛子6キロカロリー、蒟蒻5キロカロリー)ほどである。食物繊維が豊富なこともあり、ダイエット食品(健康食品)としても人気がある[6]。また、物理的に腸の老廃物を押し出す効果があり「お腹の砂払い」ともよばれている[12]。しかし、メッケル憩室保有者[15][16]や胃切除を行った人は腸閉塞を起こしやすいとする報告[17][18]がある。

調理法

蒟蒻はぷにぷにとした独特の食感を持ち、一旦凝固させると水溶性を持たず、強い弾力を示す。独特な臭みがあり、蒟蒻が敬遠される最も大きな理由ともなっている[12]。この臭みの正体は、古くなった魚の臭い成分と同じトリメチルアミンという低分子物質である。コンニャクのトリメチルアミンは撹拌しただけでは発生せず、アルカリ性になると発生する事がわかっているが、その生成機構は未解明である[12]。通常、ビニール袋やプラスチック製のパック詰めで販売されているが、缶詰などで販売されているものもある。調理に際しては一旦煮込んで灰汁抜きをするが、今日では灰汁抜きが不要な製品も多く見られる。

蒟蒻は日本ではおもにおでん煮物味噌汁豚汁などの汁物や鍋物の具に使われる。また、串を刺して味噌田楽の素材としても用いられる。たこ焼きなどに味付けした物を小さく切って入れる物もある。「しらたき」はすき焼きやおでんなどに使用される。他に炒め物やこんにゃくステーキなども存在するなど使用法は幅広い。板こんにゃくは、味がしみ込みやすいように表面に浅い切れ目を入れたり、手でちぎって調理されることもある。ただし、調理の際に酸の強い調味料を使うと結合力が低下し、軟化したり溶解してしまう場合があるので注意が要る。中国では、貴州省雲南省四川省など少数民族が多い地域でよく食され、それらの地では「魔芋」「魔芋豆腐」という名称のほうが一般的である。日本と似たような煮物惣菜のような調理が多いが、これらの地方の小吃では、コンニャクをステーキのように焼いた料理に、唐辛子や、薬味がたっぷり効かされている。


注釈

  1. ^ 実際は葉柄

出典

  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Amorphophallus konjac K.Koch”. BG Plants 和名−学名インデックス (YList). 2012年7月2日閲覧。[リンク切れ]
  2. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “コンニャク”. BG Plants 和名−学名インデックス (YList). 2012年7月2日閲覧。[リンク切れ]
  3. ^ こんにゃく芋ってどんなもの?”. 株式会社関越物産. 2018年8月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月15日閲覧。
  4. ^ 被害防止対策の内容” (PDF). 農林水産省. 2019年10月10日閲覧。
  5. ^ 平成30年産作物統計(普通作物・飼料作物・工芸農作物) こんにゃくいも
  6. ^ a b c 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編『かしこく選ぶ・おいしく食べる 野菜まるごと事典』成美堂出版、2012年7月10日、127頁。ISBN 978-4-415-30997-2 
  7. ^ 宮崎正勝『知っておきたい「食」の日本史』70P 角川ソフィア文庫
  8. ^ 関谷友彦、神戸良治、大河原順次朗、下仁田町のジオパーク活動 日本地質学会第118年学術大会・日本鉱物科学会2011年年会合同学術大会(水戸大会) セッションID: T20-P-4, doi:10.14863/geosocabst.2011.0.371.0
  9. ^ 中島藤右衛門、粉コンニャクの発案者”. 茨城県. 2009年3月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年4月17日閲覧。
  10. ^ 奥久慈のコンニャク”. 2009年4月17日閲覧。
  11. ^ 中島 藤衛門(中島 藤右衛門)”. 茨城県. 2009年4月17日閲覧。
  12. ^ a b c d e 農文協(編)『地域食材大百科:第7巻 』 農山漁村文化協会 2013年 ISBN 978-4-540-11208-9 pp.356-369.
  13. ^ a b c 編:文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会 編「2 いも及びでん粉類」『日本食品標準成分表』(2015年版(七訂))、2015年12月25日。ISBN 978-4-86458-118-9https://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2016/03/01/1365343_1-0202r.pdf2016年10月15日閲覧 
  14. ^ 奥恒行, 藤田温彦, 細谷憲政、「グルコマンナン, プルランならびにセルロースの血糖上昇抑制効果の比較」 『日本栄養・食糧学会誌』1983年 36巻 4号 p.301-303, doi:10.4327/jsnfs.36.301
  15. ^ 山本博崇, 本間陽一郎, 浜野孝、Meckel憩室による食餌性腸閉塞の1例 『日本腹部救急医学会雑誌』 Vol.30 (2010) No.1 P81-84, doi:10.11231/jaem.30.81
  16. ^ 中尾照逸、大尾充剛、内田寿博 ほか、「コンニャクによる食餌性イレウスをきたした Meckel 憩室の1例」『近畿大学医学雑誌』 29(1), 17-19, 2004-04-25, NAID 110004615468
  17. ^ 高見元敞、木村正治、竹内直司 ほか、腸管内異物によるイレウスの病像 ―食餌性イレウスと胆石イレウスを中心に― 『腹部救急診療の進歩』 Vol.7 (1987) No.4 P855-860, doi:10.11231/jaem1984.7.855
  18. ^ 大辻英吾、菊岡範一、辻本洋行 ほか、胃切除後に発症したシラタキコンニャクによる食餌性イレウスの1例 『日本臨床外科医学会雑誌』 1993年 54巻 4号 p.991-994, doi:10.3919/ringe1963.54.991
  19. ^ コンニャクとしらたきの製造方法 樋川商店、2020年12月26日閲覧
  20. ^ 糸こんにゃくと白滝の違いは? 共栄蒟蒻株式会社、2020年12月26日閲覧
  21. ^ 「しらたき(糸こんにゃく)がすき焼きの肉を硬くする」は誤解だった” (PDF). 日本こんにゃく協会 (2017年2月23日). 2022年7月21日閲覧。
  22. ^ “メタボ大国アメリカで大絶賛されている日本の“ある食品””. ダイヤモンド. (2015年12月11日). http://diamond.jp/articles/-/83072 
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  25. ^ 凍みこんにゃく 茨城県”. 農林水産省. 2023年1月3日閲覧。
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  27. ^ a b “赤こんにゃく煮 滋賀県”. https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/aka_konnyaku_ni_shiga.html 2023年1月14日閲覧。 
  28. ^ 滋賀県のご当地食材「赤こんにゃく」の謎に迫る!”. 逸品グルメ-IPPIN-. ジェネシーズ. 2023年8月29日閲覧。 “普通のこんにゃく同様下処理をし、スライスしていきます。 薄くスライスする事で、より本物のレバ刺しの様な見た目に仕上がります。 普通のこんにゃくより臭みが少ないと言われる赤こんにゃくは、食感も滑らかでかなりレバ刺しに近い仕上がりになります。 ごま油と塩、薬味を添えて完成です。”
  29. ^ 2.下仁田こんにゃく 高性能な接着素材 当時は「誇り」”. 埼玉新聞. 2007年10月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年10月20日閲覧。
  30. ^ a b 石原壮一郎 (2009-08-27). 大人の食いモン力. 扶桑社 
  31. ^ 止血材料 凍りコンニャク”. テーエムマツイ. 2016年8月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年2月21日閲覧。
  32. ^ PRODUCT”. KOTOBUKI Medical 株式会社. 2020年11月6日閲覧。
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  34. ^ 北原保雄他編『日本国語大辞典』 5巻、小学館、2001年、1216頁。ISBN 978-4-09-521004-9 
  35. ^ 宮崎正勝『知っておきたい「食」の日本史』71P 角川ソフィア文庫
  36. ^ エボシダイ科ボウズコンニャク属
  37. ^ クサウオ科コンニャクウオ属
  38. ^ 源覚寺のご紹介”. 源覚寺. 2022年7月22日閲覧。
  39. ^ 由来・由緒”. 三輪里稲荷神社. 2021年2月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年7月22日閲覧。
  40. ^ 蒟蒻神社”. 大子町観光協会 (2018年7月16日). 2022年7月22日閲覧。
  41. ^ 関税割当に関する情報 農林水産省
  42. ^ 『農林水産省年報』 第2編各論 第2章 国際部
  43. ^ 関税暫定措置法第7条の3
  44. ^ 関税・外国為替等審議会 関税分科会 配付資料2-1 暫定税率等の適用期限の到来について(資料編)(平成27年10月27日)
  45. ^ 前原外相のコンニャク高関税発言 読売新聞2011年2月17日[リンク切れ]
  46. ^ 平成22年度関税率・関税制度改正要望事項調査票(延長)
  47. ^ 農林中金総合研究所 農林漁業・環境問題レポート 2005年11月 WTO農業交渉とこんにゃく産業





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