シラミ症とは? わかりやすく解説

シラミ症


ヒト寄生するシラミには、頭部寄生するアタマジラミ(Pediculus capitis)、衣類寄生するコロモジラミ(P. humanus)、主として陰毛寄生するケジラミPthirus pubis)の3種がある。シラミ種類感染集団特異性があり、アタマジラミ症12才以下の児童コロモジラミ症は衣類取替えなど保清行動が不自由な集団ケジラミ症性行動活発な年齢層中心に発生見られる

疫 学
[アタマジラミ症]
アタマジラミ寄生世界的に子供に多い傾向認められ同一国内で人種による寄生率に差は認められていない。しかし頭髪長さ性別に関係があり、同年齢の男児女児寄生率比較した場合明らかに長髪女児アタマジラミ寄生率が高い傾向みられる全体的にアタマジラミ寄生率には国、地方幼稚園小学校などの調査施設大きく異なっているが、先進諸国開発途上国問わず子供達アタマジラミ寄生率高く世界中アタマジラミ蔓延している状況理解できる子供達の頭を洗う習慣頻度は、気候的また文化的な背景強く関係しており、一概に経済状態反映しているとは言い難い

わが国では、1971年DDTBHC等の有機塩素系殺虫剤使用禁止に伴い我が国使用可能な薬剤一時期無くなり学童園児アタマジラミ症集団発生見られるようになった1982年度アタマジラミ症報告件数は約2,300件、罹患者数約24,000人のピーク認められた。しかし同年ピレスロイド系殺虫剤(スミスリンパウダー)がアタマジラミ駆除薬として発売されてから、暫時罹患者数は減少し1987年度には約200件、1,900人にまで減少した1990年代になると再び増加傾向示し1992年度には約7,500からなるピーク認められその後、約5,000~6,000人の状態が続き1994年度以降アタマジラミ症発生件数増加傾向示している。

[コロモジラミ症]
コロモジラミ衣服着替えたり、入浴する習慣が無い山地方生活する人々民族紛争大規模な自然災害遭遇して難民生活を余儀なくされている人々囚人ホームレスなど、下着衣服取り替えることが困難な生活を強いられている人々高率寄生認められる先進諸国ではコロモジラミ患者数アタマジラミ患者数比べて非常に少ないが、路上生活者アルコール薬物依存者などの特定集団再興認められている。例えチェコスロバキアでは、1945年以来発生認められなかったコロモジラミ1991年見つかったオランダでも19931994年にかけてホームレスのための診療所で、31人からコロモジラミが見つかっている。

我が国におけるコロモジラミ症は、第二次世界大戦以前においては珍しいものではなかった。実際コロモジラミ媒介する発しんチフスは、大正7年に7,000名を超す大きな流行があった。その後昭和18年以降1,000名を超す流行続き終戦翌年昭和21年)には3万人を超す流行全国的に起こっている。これは、戦後の混乱コロモジラミ症が蔓延していたことを意味している。その後戦後復興進み発しんチフス対策としてDDT等が広範に使用されてから、非常に速やかに発しんチフス患者数減少し昭和26年には10人以下にまで減少し昭和28年からは患者がほとんど発生していない。しかしコロモジラミ症の患者1992年から増加し始め19971999年においては2542名と明らかに報告件数増加している。

最近わが国行われたある自治体調査において、ホームレス人々結核健診加えてコロモジラミ症を検査したが、平均約6%のホームレスコロモジラミ寄生認められ、ある被検者衣服から1,000匹以上の体が分離された。この調査受けたホームレス集団衛生状態比較良い者に偏っていたため、全体ホームレスにおけるコロモジラミ罹患率はより高率になる可能性がある。また例数少ないが、独居老人からのコロモジラミ寄生例報告されており、高齢化社会における老人福祉現状問題投げかけている。

病原体
アタマジラミ成虫体長が3~4 mm程(雌で2~3 mm、雄で2 mm程度)で、全体灰白色呈し血液消化管内にある場合は、その部分黒っぽく見える。口器吸血しやすい構造になっており、幼虫から成虫までヒトから吸血する。3対の脚末端には発達した爪が各1本ある。ノミ類のように跳んだ跳ねたりしない。

産卵数1日当たり約3~4個で、1カ月100個ほど産卵する。卵は約1週間孵化し吸血繰り返して3回脱皮後、約2週間成虫になる。1~2匹アタマジラミ幼虫成虫寄生され場合産卵繰り返して徐々に幼虫の数が増加し、それらが成虫になって交尾し、さらに産卵繰り返すこのようにある程度の数になるまでに1カ月ほどかかると予想される

コロモジラミアタマジラミより一回り大きいが、形態では両者区別できないコロモジラミ数時間ごとに吸血繰り返しているが、吸血時以外は下着等に付着して生活している。ケジラミ体長は1~2 mm程で、形態的に前2種明らかに異なる。

臨床症状
シラミ症の主要症状皮膚の激し掻痒感である。1~2匹幼虫または成虫寄生し始めた段階では、ほとんど掻痒感伴わないが、3~4週間経過して個体数増加する頃に激し痒み襲われる。これは、シラミ吸血時に注入する微量唾液に対して産生されIgE抗体関係していると考えられている。かゆみは吸血された皮膚周囲限局するが、関連症状としてイライラ感や不眠生じ精神的な負担引き起こす

あまりの痒さ皮膚掻破し、その傷から細菌ブドウ球菌など)の二次感染生じると、発熱疼痛などを訴えることもある。


病原診断
シラミ類は虫卵・幼虫含めて十分に肉眼確認できる大きさである。

[アタマジラミ症]
髪毛に付着している白っぽい固まりを2~3倍程度虫眼鏡観察する。なお、頭髪上のシラミ卵とふけ、ヘアスプレー乾いたもの、毛嚢からの皮脂などの付着物との鑑別は、構造観察することによって容易にできる。

[コロモジラミ症]
コロモジラミ人体ではなく患者着衣している衣類襟首袖口などの縫い目折目潜んでおり、このような部分中心に寄生有無確認する必要がある

[ケジラミ症]
ケジラミアタマジラミより小型で、カニ似た形をしているので同定しやすいケジラミ陰毛腋毛睫毛へも寄生することがある


治療・予防
シラミ症はかゆみを起こす他の皮膚疾患との鑑別が重要であり、まず、いつからどのような状況でかゆみが生じようになったか、詳しく話を聞くことが重要である(鑑別疾患としては疥癬接触性皮膚炎アトピー性皮膚炎乾癬蕁麻疹薬疹など)。また、駆除したのにいつまで取り付かれていると訴え寄生虫妄想症などにも注意する必要がある
シラミ症は特定集団内での感染反復起こりうるので、患者発生した場合接触者等の疫学調査行い感染拡大防止する

[アタマジラミ症]
アタマジラミ感染経路としては直接的な頭部接触主な要因であるが、集団生活の場や家族内で寝具タオル帽子ロッカー等を共用することによっても感染するタオルブラシ等の共用をさけ、罹患者着衣シーツ枕カバー帽子等は温水55以上)で10分間ほど処理する。さらに、親が子供たち頭髪丁寧に調べること(グルーミング)でシラミ成虫や卵の早期発見が可能であり、確実な駆除期待される集団内でアタマジラミ罹患者発見され場合駆除対策一斉に実施することが大切である。

アタマジラミ駆除のために、シラミ駆除専用パウダー剤及びシャンプー剤が市販され広く使用されているが、諸外国ではアタマジラミ駆除薬剤対す抵抗性発達大きな問題となっている。処方通り駆除剤を処理しても、なお生きたシラミが見つかる場合には、殺虫剤抵抗性発達可能性考えられるので、細かななどで物理的にシラミ駆除する方法切り替えるべきである。

[コロモジラミ症]
コロモジラミ感染経路は、シラミ付着した衣類等を共有することによる。卵、幼虫および成虫付着した下着衣服全て本人了解のもとに破棄させる。必要によってはオートクレーブで処理後、一般ゴミとして捨てる。患者シャワー等で全身汚れ洗い流しシラミ寄生していない衣類着替えさせる。

[ケジラミ症]
ケジラミ感染経路性行為等、直接接触が主である。患者剃毛による体及び卵の駆除を行う。他の性行為感染症クラミジアトリコモナス梅毒など)を合併していることもあるので、合わせて精査加療を行う必要があるまた、セクシャルパートナーとのピンポン感染を防ぐため、同時に治療を行うよう指導する

シラミ媒介性疾患
コロモジラミ発しんチフス回帰熱(ともに四類感染症)、塹壕熱病原体媒介する最近発しんチフスおよび回帰熱アフリカ諸国中心に断続的に大流行し塹壕熱先進国ホームレスアルコール薬物依存患者の間で確認され始めている。

[発しんチフス]
ブルンジでは1995年にNgoziの刑務所で、コロモジラミ蔓延同時に原因不明高熱患者発生した患者血液採集されコロモジラミから、発しんチフス病原体であるRickettsia prowazekiiが検出された。この流行後1996年には3,500名の患者が、また、1997年の1~5月に かけては約24,000名の患者ブルンジ国内発生した患者から採取され血液87%およ びコロモジラミ25%から、病原体検出されている。発しんチフスに関する最近の事例を以下 に紹介する

事例1ブルンジ刑務所収監者健康管理仕事に2カ月従事した国際赤十字看護 師が、スイス帰国後、高熱悪寒筋肉痛主訴として入院した旅行歴、症状などからウイ ルス性出血熱腸チフス疑われ発しんチフス対す適切な治療行われなかった。患者発症後9日目に、発しんチフスによるショック多臓器不全死亡した。このケースは、劣悪な 衛生環境仕事従事している医療関係者が、コロモジラミ媒介性疾患感染するリスクが高 いことを示しており、国際的な感染症対策現状問題投げかけた。

事例21997年ロシアLipetsk市では、精神病院勤務看護師高熱全身性の斑状・丘 疹状の発疹精神錯乱状態で病院受診し発しんチフス診断された。患者衣服コロ モジラミ寄生認められ精神病院入院患者23名および病院スタッフ6名にも同様の症状認められた。当時、同市の暖房供給システム停止状態で、夜間は-10まで室温が下がり、看 護師衣服取り替えていなかった。ロシアでの政治体制変革に伴う経済・社会状況の変化 は、疾病構造明らかに変化させ、ロシア国内20年見られなかった発しんチフス再興し ている。

[回帰熱]
1991年南西エチオピアではBorrelia recurrentis による回帰熱流行起こり、この地域人口2/3コロモジラミ寄生見られ全家庭の15%に回帰熱流行認められた。エチ オピアでは回帰熱断続的に流行しており、毎年1万人ほどの患者発生していると推定され ている。また、19981999年にかけて、スーダン回帰熱流行起こっており、数百人以上 がこの流行によって死亡した推定されている。

[塹壕熱]
塹壕熱病原体であるBartonella quintana は遅発性グラム陰性桿菌で、コロモジラミ体 内増殖したB. quintana が糞とともに排泄され、これが掻爬により皮膚から侵入し感染する考えられている。臨床症状発熱、骨・関節痛などが主であるが、臨床症状のない慢性の菌血 症状態を呈することもあり、また患者HIV感染等で免疫力低下した状態にあると、心内膜炎起こし突然死に至ることもある。

疾患第一次および第二次世界大戦時代の兵士中心に大流行したのち、沈静化してい たが、1998年マルセーユホームレス71人中10人から塹壕熱病原体検出され21人に 高い抗体価認められた。血液からの病原体検出および抗体検査から、最近感染である ことが示唆され陽性者にはコロモジラミ寄生見られた。アメリカヨーロッパ諸国からも症 例報告相次いでいる。

PCR法による世界6カ国から採取されコロモジラミ病原体保有状況調査では、フランスロシアペルーブルンジ等のシラミから病原体検出された。この感染症我が国には存在しな い考えられていたが、最近我が国採取されコロモジラミからB. quintana の遺伝子PCR法検出され、また患者血清からもPCR法病原体確認された。

学校保健法における取り扱い
アタマジラミ症学校保健上しばしば問題となるが、学校保健法施行規則一部改正1999年4月にともない文部省作成した参考資料では「通常出席停止の必要はないと考えられる伝染病」として例示された。

国立感染症研究所昆虫医科学部 関なおみ 小林睦生)


シラミ症

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/13 01:20 UTC 版)

ヒトジラミ」の記事における「シラミ症」の解説

シラミ宿主特異性高くヒトにつくシラミは常にヒト寄生し定着して生息している。ヒトシラミ寄生された状態はシラミ症と呼ばれる。シラミ症自体生命関わることはないが、シラミ吸血激しいかゆみを引き起こすため、駆除による治療必要になるシラミ種類によって寄生する部位異なりアタマジラミ頭髪コロモジラミ衣服ケジラミ陰毛部をそれぞれ主な生息場所としており、それぞれそこで繁殖して数を増やす。卵や幼虫のうちは気付かないことが多いが、成虫増殖する吸血する際に激しいかゆみを生じるようになる。このかゆみは、シラミ吸血する際に注入する唾液分泌物と、アレルギーよるものの、二つ作用によって引き起こされる考えられている。また、このかゆみによって皮膚掻きむしることで、細菌感染症などの原因になることもある。 シラミはそれを保有しているヒト衣服接触することによって感染することが多いが、ごくまれに風呂などを介して感染することもある(通常アタマジラミケジラミ水中では体毛しがみつくため水介した感染起こりにくい)。なお、アタマジラミ感染しても、プールを介して感染する心配はないた遊泳は可能である。ただし、接触感染により感染拡大するためタオル水泳帽などの共有避けるべきである。一般に衛生環境よくないところで大量発生することが多く先進諸国ではDDTなどの有機塩素系殺虫剤使用によってその発生激減した。しかし発展途上国においては依然多数患者存在しており、また先進諸国においても安全性の問題から有機塩素系殺虫剤使用規制され以降、(特に長髪の)学童でのアタマジラミ流行や、路上生活者におけるコロモジラミ流行、また不特定多数との性行為によるケジラミ流行などが問題になっている診断にはシラミ個体寄生確認することが第一だが、少数個体寄生は虫体を視認することが困難なことが多い。特にアタマジラミコロモジラミすばやく動くので慣れない見失うことがあるアタマジラミケジラミは卵を体毛膠着させるため、これを確認すればシラミ寄生確定できるが、ヒト体毛はしばし毛穴内壁角質更新剥離したもの(ヘアキャスト)が付着しており、肉眼ではヘアキャストシラミ卵の区別は困難である。しかしヘアキャストは指でさわると動くのに対しシラミの卵は髪の毛産み付けられる際、セメント状の物質固定されるのでしごいてもほとんど動かない。また顕微鏡および双眼実体顕微鏡ルーペなどで拡大して観察すれば同定できる。さらにアミノ酸ペプチド反応して紫色発色するニンヒドリン試薬用いると、ヘアキャスト濃く染色されているのに対しシラミ卵は染色されず白いままとなりシラミ卵の同定は容易となる。 治療には、シラミ成虫から卵にいたるまで完全に駆除することが重要である。

※この「シラミ症」の解説は、「ヒトジラミ」の解説の一部です。
「シラミ症」を含む「ヒトジラミ」の記事については、「ヒトジラミ」の概要を参照ください。

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