電気けいれん療法 電気けいれん療法の概要

電気けいれん療法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/05/10 13:15 UTC 版)

Electroconvulsive therapy
治療法
ECT machine 03.JPG
ICD-10-PCS GZB
ICD-9-CM 94.27
MeSH D004565
OPS-301 code 8-630
MedlinePlus 007474

ECTには大きく分けて、四肢や体幹の筋にけいれんを実際に起こすもの(有けいれんECT)と、筋弛緩剤を用いて筋のけいれんを起こさせないもの(修正型ECT、無けいれんECT)に分類され、用いる電流も「サイン波」型と「パルス波」型に分類できる。

1938年イタリアローマウーゴ・チェルレッティルシオ・ビニ英語版によって創始された、元は精神分裂病(現在の統合失調症)に対する特殊療法として考案されたものである。日本では1939年九州大学の安河内五郎と向笠広次によって創始された。その後、他の疾患にも広く応用されて急速に普及し、精神科領域における特殊療法中、最も一般化した治療法である[4]。作用機序は不明である[5][6]

多くの場合、ECTはインフォームド・コンセントを得たうえで[7]大うつ病躁病緊張病の治療手段として用いられている[8]

適用

日本国内では、うつ病躁うつ病統合失調症などの精神障害(まれにパーキンソン病などにも)の治療に用いられている。

  • うつ病
    重症で自殺の危険が高く緊急を要する場合や、薬物療法を充分行っても症状が改善しない場合、薬物療法の副作用が強い場合など。
  • 躁うつ病
    うつ状態で上記したような問題がある場合や、躁状態で興奮が強く緊急を要する場合など。
  • 統合失調症
    難治性の場合や、抑うつを伴い自殺の危険が強い場合、緊張型の昏迷状態など。
  • パーキンソン病
    気分症状と運動症状の両方にしばしば効果が認められる。薬物抵抗性がある場合、あるいは抗パーキンソン病薬が副作用により使えない場合など、疾患の末期に用いられるのが典型的である。

1961年当時の厚生省保険局通知「精神科の治療指針」によると適応症として『精神分裂病、躁うつ病、心因反応、反応性精神病。神経症神経衰弱麻薬中毒覚せい剤中毒酒精中毒性、精神病等』があげられていた。

ガイドライン

アメリカ精神医学会(APA)のECTガイドラインでは[いつ?]、精神病、躁せん妄、緊張病の伴う深刻な抑うつについて早期のECTを実施する明確なコンセンサスがあるとしている。APAの2009年ガイドラインでは予防段階でのECT使用を支持している

2003年の英国国立医療技術評価機構(NICE)のECTガイドラインでは、重症のうつ病、継続する重症のエピソード、緊張病のみに用いられるべき(should only be used)だとしている[9]。2009年のガイドラインでは以下である。成人の抑うつに対しては、急性期の深刻な抑うつであり、生命危機に迫った救急状況、もしくはその他の治療手法が失敗した場合に検討するとしている[10]。標準的なうつ病に対しては、繰り返しECTを行ってはならないが、だが複数の薬物治療と心理療法に効果を示さない場合は検討できるとしている[10]。NICEは、再発性うつ病の予防のため長期のECTを行ってはならない、統合失調症の一般的管理にECTを用いてはならないと勧告しており[9]、NICEの成人の抑うつ治療ガイドラインでも同じ立場である[11]

副作用

2001年より、APAは永続的な逆行性(術前の)健忘症に関しての説明を含んだ同意書を強く推奨している[12]。混乱はよくあり問題を生じさせず、順行性(術後の)健忘症は数週間から数か月続くことがある[12]。自伝的な記憶に関する永続的な逆行性健忘は、1/3の人々に生じうる頻繁かつ重篤な副作用のひとつである[12]

以下のような副作用が起こることがある。

  1. 心血管系の障害:筋はけいれんしなくても、通電直後数秒間に迷走神経を介した副交感神経系の興奮が生じ、徐脈や心拍停止、血圧の低下を生じることがある。また、カテコールアミン放出を伴う交感神経系の興奮が惹起され、頻脈や血圧上昇、不整脈などが起こることもある。
  2. 認知障害:通電直後に生じ、見当識障害、前向性健忘(以前の記憶はあるが、ECT後の出来事などが覚えられなくなる)や逆行性健忘(新しいことは覚えられるが、以前の記憶、特にECT施行直前の記憶がなくなっている)が見られることがある[13]。老人に頻度が高い。多くは時間とともに回復する。失見当識・前向性健忘は比較的短時間に回復し、逆行性健忘は回復が緩徐である。また、そのまま認知機能の低下が遷延するという例も少数だが報告されている[14]。なおオウム真理教の修行の一つであるニューナルコはこの副作用を応用したもの。
  3. 躁転:時に多幸的・脱抑制・易刺激性を伴う。双極性障害患者において特に躁転する頻度が高い。
  4. 頭痛:45%程度の患者が自覚するとされている。拍動を伴う前頭部痛を示す事が多い。電極配置や刺激強度などとは関連しない。

NICEは、妊娠女性、高齢者、若年者については合併症リスクがより高い(higher risk of complications)ため、注意深くECTを実施すべきだとしている[9]

安全性

死亡または重度障害の危険は5万回に1回程度であり、出産に伴う危険よりもはるかに低いと報告されている[15][16]。米国精神医学会タスクフォースレポートによれば、絶対的な医学的禁忌といったものも存在しない[17]。ドイツのゲルト・フーバーによると器質性の脳傷害と重傷の一般的な身体疾患(とりわけ心臓-循環器疾患)を禁忌としている[18]。水野昭夫によれば絶対的禁忌として頭蓋内圧亢進症を挙げている[19]


  1. ^ 英国国立医療技術評価機構 2003, Chapt.3.1.
  2. ^ a b c d 大熊輝雄・「現代臨床精神医学」第12版改訂委員会 『現代臨床精神医学』、2013年、12。ISBN 978-4307150675
  3. ^ 前進友の会 2005, p. 60.
  4. ^ 『精神科の治療指針』厚生省保険局、1961年10月27日。
  5. ^ a b 英国国立医療技術評価機構 2003, Chapt.3.2.
  6. ^ a b フランク・ゴンザレス・クルッシ『医学が歩んだ道』堤理華・訳、武田ランダムハウスジャパン、2008年。ISBN 9784270003657。p.275.
  7. ^ Beloucif S (2013). “Informed consent for special procedures: electroconvulsive therapy and psychosurgery”. Curr Opin Anaesthesiol 26 (2): 182–5. doi:10.1097/ACO.0b013e32835e7380. PMID 23385317. 
  8. ^ FDA. FDA Executive Summary. Prepared for the January 27–28, 2011 meeting of the Neurological Devices Panel Meeting to Discuss the Classification of Electroconvulsive Therapy Devices (ECT). Quote, p38: "Three major practice guidelines have been published on ECT. These guidelines include: APA Task Force on ECT (2001); Third report of the Royal College of Psychiatrists’ Special Committee on ECT (2004); National Institute for Health and Clinical Excellence (NICE 2003; NICE 2009). There is significant agreement between the three sets of recommendations."
  9. ^ a b c d e 英国国立医療技術評価機構 2003, Overview.
  10. ^ a b CG90 - Depression in adults: The treatment and management of depression in adults (Report). 英国国立医療技術評価機構. (2009-08). Chapt.1.10.4. http://www.nice.org.uk/guidance/CG90/. 
  11. ^ 英国医療技術評価機構 2009, p. 526.
  12. ^ a b c Hengartner, Michael P. (2017). “Methodological Flaws, Conflicts of Interest, and Scientific Fallacies: Implications for the Evaluation of Antidepressants’ Efficacy and Harm”. Frontiers in Psychiatry 8: 275. doi:10.3389/fpsyt.2017.00275. PMC 5725408. PMID 29270136. https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyt.2017.00275/full. 
  13. ^ Sackeim H.A.,"Acute cognitive side effects of ECT",Psychopharmacol,22;1986,pp 482-484
  14. ^ Sobin C, Sackein H.A., Prudic J, et al, "Predictors of retrograde amnesia following ECT", Am. J. Psychiatry,152;1995,pp 995-1001
  15. ^ ECTの危険性とその発生率 産業医科大学
  16. ^ 無けいれん性通電療法 医療法人社団 成仁
  17. ^ 日本精神神経学会電気けいれん療法の手技と適応基準の検討小委員会 2002.
  18. ^ ゲルト・フーバー 2005, p. 168.
  19. ^ 水野昭夫 2007, p. 36.
  20. ^ Leiknes KA; Jarosh-von Schweder L; Høie B (2012). “Contemporary use and practice of electroconvulsive therapy worldwide”. Brain Behav 2 (3): 283–344. doi:10.1002/brb3.37. PMC 3381633. PMID 22741102. http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?tool=pmcentrez&artid=3381633. 
  21. ^ 水野昭夫 2007, p. 33.
  22. ^ 第107回日本精神神経学会1-H-27「長パルス波ECTが奏効した統合失調症の一例」
  23. ^ Long Brief Pulse Method for Pulse-wave modified Electroconvulsive Therapy arXiv:1112.2072 [q-bio.NC] available at http://arxiv.org/abs/1112.2072
  24. ^ ゲルト・フーバー 2005, p. 167.
  25. ^ a b 英国国立医療技術評価機構 2003, Chapt.3.7.
  26. ^ 英国国立医療技術評価機構 2003, Chapt.3.8.
  27. ^ WHO Resource Book on Mental Health, Human Rights and Legislation (Report). World Health Organisation. (2005). p. 64. http://www.who.int/mental_health/policy/resource_book_MHLeg.pdf. 
  28. ^ 笠陽一郎 2008, p. 207.
  29. ^ 引用・抜粋先は『精神科治療学』第8巻第4号(1993年4月)
  30. ^ アル・ハイデル、ジョン・ダーク『トンデモ陰謀大全最新版』北田浩一・訳、成甲書房、2006年。ISBN 9784880861913。pp.121-122.
  31. ^ 第105回日本精神神経学会1-D-14「修正型電気けいれん療法(mECT)に麻酔科医は必置か?」
  32. ^ advanced ECT techniques
  33. ^ 小俣和一郎『精神医学の歴史』第三文明社、2005年、ISBN 9784476012521。pp.159-162.
  34. ^ モートン・マイヤーズ『セレンディピティと近代医学―独創、偶然、発見の100年』小林力 (訳)、中央公論新社、2010年。ISBN 9784120041037。pp.295-297.


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