神 多神教の神

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/19 12:43 UTC 版)

多神教の神

多神教の例として、アジアに広く存在している「仏教」、インドの「ヒンドゥー教」、中国の「道教」および日本の「神道」がある。

どちらも、別の宗教の神を排斥するより、神々の一柱として受け入れ、他の民族や宗教を自らの中にある程度取り込んできた。日本でも明治の神仏分離令によって分離される以前は、神道と仏教はしばしば神仏や社寺を共有し混じりあっていた。多神教においても、原初の神や中心的存在の神が体系内に存在することがある。そうした一柱の神だけが重要視されることで一神教の一種、単一神教とされることもあり、その区別は曖昧である。

ヒンドゥー教

ヒンドゥー教の人間神は、自然神の生まれ変わりであったり、生前に偉大な仕事をなした人であったりする。 現在のヒンドゥー教は、次に挙げる三つの神を重要な中心的な神として扱っている。

シヴァは世界の終わりにやって来て世界を破壊して次の世界創造に備える役目をしている。

ヴィシュヌは、世界を三歩で歩くと言われる太陽神を起源としており、世界を維持する役目がある。多くのアヴァターラとして生まれ変わっており、数々の偉業をなした人々がヴィシュヌの生まれ変わりとしてヒンドゥー教の体系に組み込まれている。仏教の開祖ゴータマ・ブッダも、ヒンドゥー教の体系においてはヴィシュヌの生まれ変わりとされ、人々を惑わすために現われたとされる。

ブラフマー(梵天)は、世界の創造と、次の破壊の後の再創造を担当している。人間的な性格は弱く、宇宙の根本原理としての性格が強い。なお、自己の中心であるアートマンは、ブラフマーと同一(等価)であるとされる(梵我一如)。

道教

道教は漢民族の土着的・伝統的な宗教である。中心概念の(タオ)とは宇宙人生の根源的な不滅の真理を指す。道の字は「辶(しんにょう)」が「終わり」を、「」が「始まり」を示し、道の字自体が太極にもある二元論的要素を表している。この道(タオ)と一体となる修行のために錬丹術を用いて、不老不死の霊薬、を錬り、仙人となることを究極の理想とする。それはひとつの道に成ろうとしている。

道教は多神信仰の宗教であり、「三清」を最高神とする。道教の信仰する神仙は大きく分けて「神」と「仙」の2種類である。「神」には天神、地祇、物霊、地府神霊、人体の神、人鬼の神などが含まれる;このうち天神、地祇、陰府神霊、人体の神のような「神」は、先天的に存在する真聖である。「仙」は仙真を指して、仙人と真人を含んで、後天的に修練を経て道を得て、神通力は広大で、変化は計り知れず、また不死の人である。[37]

道教では、道は学ぶことはできるが教えることはできないと言われる[38]。言葉で言い表すことのできる道は真の道ではないとされ、道士の書物や言葉は道を指し示すものに過ぎず、真の「恒常不変の道」は各自が自分自身で見出さなくてはならないとされている。

神仙となって長命を得ることは道を得る機会が増えることであり、奨励される。真理としての宇宙観には多様性があり、中国では儒・仏・道の三教が各々補完し合って共存しているとするのが道教の思想である。食生活においても何かを食することを禁ずる律はなく、さまざまな食物を得ることで均衡が取れ、長生きするとされる。 また、武術を通じて「」を整え精神の安定を図る、瞑想によって「無為を成す」ことも道への接近に有効であるという[38]

神道

天照大御神

本居宣長は「尋常(よのつね)ならず人の及ばぬ徳(こと)のありて、畏(かしこ)きもの」と定義したが、神道においては、神の定義は一義的には定めにくい。教義と言えるようなものを持たず、歴史的経緯により、様々な異質な要素が混在した信仰であるからである。「八百万の神」と言われ「八百万(やおよろず)」は数が多いことの例えである。神道は古代律令国家によりその体系が整えられたが、道教中の陰陽道仏教の影響を強く受け、明確な信仰体系を持たない時代が長く続いた。明治期に仏教の影響を排除する神仏分離が行われ、一神教を意識した体系として「国家神道」が再構成されている。これにより、神道における神は天照大神から「現人神」とされる天皇に至る流れを中心として位置づけられた。しかし、この改変は徹底したものではなく、土着的な要素も依然多く残った。第二次世界大戦後、神社神道は国家と分離され、それまで非宗教とされていた神道は宗教として位置づけなおされたが、現在もなお神仏習合国家神道の名残はそれぞれ強く残り、依然として異質の要素が雑然と混在した信仰である。仏教の影響を受ける以前の神道を「古神道(原始神道)」と呼び区別する場合もある。しかし、明治以降の「国家神道」も、江戸時代に研究が進んだ「古神道」の考え方を多く取り入れて形成された側面がある。

仏教

仏教は、本来は神のような信仰対象を持たない宗教であった。原始仏教煩悩から解放された涅槃の境地に至るための実践の道であり、超越的な存在を信仰するものではなかった。現在は神と同じ様に崇拝されている開祖のゴータマ・シッダルタも、神を崇拝することを自分の宗教に含めず、また自身を神として崇拝することも許さなかった。

時代が下るにつれ、ゴータマらの偉大な先人が、悟りを得たもの()として尊敬を集め、崇拝されるようになり、仏教は多神教的な色彩を帯びていく。仏教にはヒンドゥー教の神が含まれ、中国の神も含まれ、日本に来ては神道と混ざりあった。仏教が様々な地域に浸透していく中で、現地の神々をあるいは仏の本地垂迹として、あるいは護法善神として取り込んだのである。したがって、仏教も一部の宗派では神を仏より下位にあって仏法を守護するものと位置づけ、ある面では仏自体も有神教の神とほぼ同じ機能を果たしている。

日本の神社で弁財天として祭られている神も、そもそもは仏教の護法神(天部の仏)として取り込まれたヒンドゥー教の女神サラスヴァティーであり、仏教とともに日本に伝わったものである。これはやがて日本の市杵島姫神と習合した(神仏習合本地垂迹説)。

仏教における神

仏教を考える場合、釈迦の教えとそれを継承していった教団のレベルと、土着信仰を取り込んだ民衆レベルとを混同しないで、それぞれについて議論する必要がある。

釈迦は、人間を超えた存在としての神に関しては不可知論の立場に立ち、ヴェーダーンタの宗教を否定・捨てた人であるという主張もある。一方で、釈迦は人間を超えた存在(非人格的)を認めており、ただ単にその理解の仕方がキリスト教やヒンドゥー教などの人格神とは異なるだけという意見もある。

浄土真宗親鸞は、和讃において「弥陀の浄土に 帰しぬればすなわち諸仏に 帰するなり」と説いており、阿弥陀如来に帰依すれば、あらゆる神仏に帰依するものとしている。

現代日本では仏教はもっぱら霊魂の永遠不滅を前提とした葬式を扱う宗教と見られることが多いが、古代インドの部派仏教では死後も残る(アートマン)のようなものを否定する部派も存在し、現代日本においても無霊魂説を前提に仏教は無神論であると考える学者や僧侶は存在する。ここにおいても民衆の信仰の形とは大きな差異がある(釈迦は、自己の魂(アートマン)が死後も残るのかとの議論に対し、回答をしない(無記)という態度をとったが、この態度は、アートマンが残り輪廻するというヴェーダーンタの宗教を拒否しているとも受け取られた)。

古代インドの宗教的な文書(ヴェーダ)では、全ての神々は梵(ブラフマン)から発生したと見なされており、仏典の「梵天勧請」の説話には、釈迦が悟った後、「悟りは微妙であり、欲に縛られた俗人には理解できない。布教は無駄である。」として沈黙していたので、神(デーバ)の一人である梵天ブラフマン)が心配してやって来て「俗人にもいろいろな人がいるので、悟った真理を布教するよう」に勧めて要請し、釈尊がそれを受け入れたという物語などが残っている。

一方、民衆レベルでは、仏もこの記事で扱うところの広い意味での「神」の一種であるといえる。日本では死亡を「成仏」と、死者を「」と呼称するに至る。この場合の仏とは、参拝し利益を祈願する対象であって、かつての原始仏教でそうであったような「教えを学び、悟る・覚醒する」という対象ではない。ただし、日本における仏は、キリスト教の訳語としての「神」が定着する以前からの存在であり、一般的な日本語において神と仏とは区別して用いられる(神像と仏像など)。

ブッダ(仏)と神

一般に、仏教では解脱には無用なので神の存在を扱わない。

なお大乗仏典華厳経には、人間がこの世で経験するどのようなことも全て神のみ業であるとの考え方は、良いことも悪いことも全て神によるのみとなって、人々に希望や努力がなくなり世の中の進歩や改良が無くなってしまうので正しくないと説かれているが、これは神の存否について議論したものというわけではない。


  1. ^ "神". ブリタニカ国際大百科事典. コトバンクより2020年12月8日閲覧
  2. ^ "神". デジタル大辞泉. コトバンクより2020年12月14日閲覧
  3. ^ a b c d e f g ブリタニカ国際大百科事典【神】
  4. ^ 小学館『大辞泉』編集部/ 編『大辞泉』(増補・新装版)小学館、1998年11月20日、548-549頁。ISBN 978-4-09-501212-4 
  5. ^ 引用エラー: 無効な <ref> タグです。「kanji961」という名前の注釈に対するテキストが指定されていません
  6. ^ 張世超; 孫凌安; 金国泰; 馬如森 (1996), 金文形義通解, 京都: 中文出版社, pp. 21–22, ISBN 7-300-01759-2 
  7. ^ 張桂光 (2014), 商周金文辭類纂, 北京: 中華書局, pp. 33–34, ISBN 978-7-101-10010-5 
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  9. ^ 島田鈞一「一九 有神降于莘 莊公三十二年」『春秋左氏伝新講』有精堂出版部、1937年、60-61頁。NDLJP:1120963/38 
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  11. ^ Preston Hunter, Major Religions of the World Ranked by Number of Adherents
  12. ^ ヘブライ語対訳英語聖書 Genesis 1
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  29. ^ 改革派教会からの参照:ウェストミンスター信仰基準
  30. ^ バプテストからの参照:Of God and of the Holy Trinity., Of Christ the Mediator. (いずれもThe 1677/89 London Baptist Confession of Faith)
  31. ^ メソジストからの参照:フスト・ゴンサレス 著、鈴木浩 訳『キリスト教神学基本用語集』pp.73-75, 教文館、2010年11月、ISBN 9784764240353
  32. ^ 高島俊男『お言葉ですが…』 11巻、連合出版、2006年11月。ISBN 978-4-89772-214-6  [要ページ番号]
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