獣医師 獣医師の概要

獣医師

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/07 15:04 UTC 版)

ペットや畜産業の動物を診断する医者以外にも、食品衛生、公衆衛生、薬品開発など幅広い分野に関わる医師もいる。

日本の獣医師

歴史

近代以前では、馬を診断することが多く馬薬師・馬医と呼ばれ、中国の故事に書かれる馬の目利き伯楽か馬の守護星の名からか判別しないが、伯楽と呼ばれることもあった[2]平安時代中期、10世紀に書かれた朝廷の役職などを記載した『延喜式』に馬医と馬薬の記載がある[2]

1876年、内藤新宿試験場内の農事修学場に獣医科生29人が入学し、イギリスから来た獣医学教師マックブライドの授業を受ける[2]

1885年、太政官布告により、獣医免許規則が公布された[2]

獣医師資格

獣医師
英名 veterinarian
実施国 日本
資格種類 国家資格
分野 医療
認定団体 農林水産省
等級・称号 獣医師
根拠法令 獣医師法
公式サイト 公益社団法人日本獣医師会
ウィキプロジェクト 資格
ウィキポータル 資格
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獣医師免許の日本における認可機関は農林水産省である[1]

獣医師でない者が、飼育動物(めん羊山羊うずら・その他獣医師が診察を行う必要があるものとして政令で定めるものに限る)の診療を業務としてはならない業務独占資格でもあり、獣医師でない者が「獣医師」[3]の名称を使用したり、「動物医」・「家畜医」・「ペット医」等の紛らわしい名称も用いたりしてはならない名称独占資格でもある。

獣医師法では、動物の診療保健衛生指導などを通して、次の三つに寄与することが使命とされている。

また、獣医師資格を保有していても所定の届出を行っていない場合は臨床に携わることができない。具体的には、獣医師が飼育動物の診療の業務を行うため、診療施設を開設した場合は獣医療法第3条により、その開設の日から十日以内に、当該診療施設の所在地を管轄する都道府県知事に農林水産省令で定める事項を届け出なければならない。また、往診のみによって診療を行う獣医師については、獣医療法第7条によりその住所を診療施設とみなして、第3条の規定が適用される。

獣医師に付与される資格

臨床獣医師

  • 小動物臨床獣医師
    住宅地等で自ら動物病院など小動物診療施設を開設、または既存の小動物診療施設に雇用されて勤務しエキゾチックアニマルなどを対象として診療行為を行なう小動物臨床、いわゆるペット病院の獣医師。
    なお獣医師は診療した場合、診療簿(医師の診療録にあたる)にその事実を記載しなければならない。
  • 産業動物臨床獣医師
    農村地域等で自ら診療施設を開設するか農業共済組合または農業協同組合等に勤務し、周辺の畜産農家に往診し、などの産業動物を対象とする診療行為のほか、ワクチン接種及び消毒など伝染病予防の衛生指導といった予防衛生業務を行なう。動物福祉畜産物トレーサビリティに関する指導を行う例もあり、企業形態の畜産農場に雇用されて勤務している者もこの範疇に入る。
    農村地域で自ら診療施設を開設した獣医師が、往診先の農家で飼われているペットの診療を行なうことは法的に何ら問題ないため、近隣に小動物臨床獣医師がいないような地域ではそのようなケースも多い。畜産農家の戸数及び家畜の飼養頭羽数の減少などにより、従事者の減少が深刻化している。

公務員獣医師

国家公務員としての獣医師

獣医職としての採用がある省は厚生労働省および農林水産省である。獣医系技術職員はⅠ種相当の行政官として採用される。

活躍の場所は本省、全国の空港や海港に設けられた「検疫所」や「動物検疫所」などである。なお検疫所は厚生労働省、動物検疫所は農林水産省の所管である。

  • 「検疫所」は人の伝染病(感染症)の海外から日本国内への流入、及び日本国内から海外への流出を未然に防ぐ重要な機関であり、獣医師職員はこのうち輸入食品の確認検査の業務を担当する。
  • 「動物検疫所」では輸出入される生きた動物、食品以外の動物製品に由来する伝染病・感染症の流出・流入を未然に防ぐ業務をおこなう。

地方公務員としての獣医師

「公務員の獣医師(行政獣医師)」の活躍の場は、農林水産行政(家畜保健衛生所など農林水産省の法令を所管)と、公衆衛生行政(保健所、食肉衛生検査所など厚生労働省の法令を所管)とに大別される。

  • 「各都道府県庁」畜産行政事務及び公衆衛生(と畜場動物愛護法)行政事務を中心に、一部の県では林業の鳥獣保護及び狩猟許可行政事務や、水道行政事務(ネズミなどの駆除)に関わる者も少数ながら存在する。捕鯨が盛んだった時期は、近海捕鯨県の水産課(和歌山県高知県)にも配属されていた。
  • 「食肉衛生検査所」からと畜場へ出向き、食肉の検査を通じて食用の家畜の病態調査や病原性大腸菌(O157)・BSEなどの人獣共通感染症対策及び残留抗生物質対策に従事する者(と畜検査員)。
  • 保健所において、食品衛生監視業務、環境衛生監視業務、薬事監視業務に従事する者(食品衛生監視員,環境衛生監視員および薬事監視員)。動物愛護施設が別にない場合は動物保護管理業務を含む。また、人獣共通感染症の専門家として感染症予防法に基づく業務にも従事する。
  • 「動物愛護施設自治体により名称は異なる)において、狂犬病予防法動物愛護法にもとづき保護された犬猫ほかの動物の管理・殺処分・譲渡、動物愛護普及啓発業務、及び動物取扱業特定動物飼育施設の監視業務に従事する者(狂犬病予防員及び動物監視員)。なお化製場等に関する法律にもとづく届出は、通常保健所の所管であるが、動物愛護施設で取り扱う場合もある。
  • 「衛生研究所(自治体により名称は異なる)等の試験研究機関において、研究員として主に人の感染症や食品衛生に関する研究・検査業務に従事する者。
  • 家畜保健衛生所において、BSEや口蹄疫ならびに高病原性鳥インフルエンザをはじめとする家畜の感染症など、生産性に悪影響を及ぼす各種疾病の検査・診断業務及び予防対策に従事する者(家畜防疫員)。
  • 「動物園や水族館」にて展示動物の診療を行なう獣医師であっても、その経営母体が都道府県市町村などの地方公共団体であれば、同様に地方公務員となる。
  • 畜産試験場において、家畜の改良増殖に従事する者。
  • 林業試験場において、狩猟監視許可野生動物保護に従事する者(特に、関東地方の林業試験場に多く配属されている)。
  • 水産試験場において、魚類をはじめとする水産動物・植物の改良増殖に従事する者(2010年8月現在、水産試験場における獣医師は三重県水産研究所以外には配属されていない)。

公務員獣医師の不足問題

食の安心・安全や、BSE・鳥インフルエンザなどの動物由来感染症に世間の注目が集まるとともに公務員獣医師、特に地方公務員獣医師の仕事量は年々増加している。しかし前述のとおり昇進の遅さに加えて肉体・精神ともに過酷な業務が多く、大半の都道府県における給与体系が事務職と同一であるなど待遇面の改善が遅れているため、新卒の獣医学生の多くが小動物臨床を志望する傾向が年々強まっている。そのため東京都・神奈川県・大阪府など大都市圏を除いた多くの県が定員割れであり、さらには団塊世代の大量退職による深刻な公務員獣医師の不足が生じている。ただし、近年では改善案として給付型奨学金や初任給調整手当を支給する都道府県が増加している。(初任給調整手当は平成24年度で25都道府県で支給)[4] また、福岡県における「特定獣医師職給料表」の新設のように、同じく6年制である学部を卒業した医師と同様の待遇が必要とされている。

私立獣医科大学協会会長政岡俊夫による「我が国における獣医師の需給見通し等について(意見)」(2013年2月)によれば、日本の獣医師数全体に不足はなく「むしろ供給過剰になる可能性(p.1)」があるとしながらも、公務員獣医師就職者については地域偏在が課題となっていることを認めており、「獣医師が担当していて他の職種と入れ替えることが可能な公的業務は相当にあります。(中略)欧米のような食肉検査補助員制度が我が国にも導入されれば、地方における公衆衛生獣医師の需要は激減します。(p.2)」「公衆衛生分野において欧米並みのスーパーバイザー的な制度の確立が出来上がれば、公務員獣医師の需要の激減も予測されます。(p.2)」などと提言している[5]

関連法規

獣医師育成機関

現在、獣医学を学べる大学は全国で17校ある。これらの学校教育法に基づく大学短期大学を除く)において、獣医学の正規の課程(獣医学科・6年制)を修めて卒業した者のみに獣医師国家試験を受験する資格が得られる。国公立大学の総定員370名と私立大学の総定員700名を足しても約1070人しか募集がないため、入学試験の単純倍率は約20倍前後といわれ農学系の中では最難関の学科である。なお、農林水産省の管轄で農学部に含まれることが多いが基礎医学などは医学科とほぼ同じことを学んでいる。

国立大学

公立大学

私立大学

北米の獣医師

米国の全州およびカナダにおける獣医師資格試験(North America Veterinary Licensing Examination)は1950年から統一基準をもとに行われている[6]

アメリカ合衆国の獣医師

米国では1892年に全州をまたがる獣医師会組織が求められ、米国獣医師会(American Veterinary Medical Association: AVMA)が組織された[6]。1946年に米国獣医師会に獣医学教育審議会(Council on Education:COE)、1950年には獣医師国家試験委員会(National Board of Veterinary Medical Examiners)が設置され、米国の全州とカナダにおける獣医師資格試験(North America Veterinary Licensing Examination)の統一基準が作成された[6]

獣医師免許のアメリカ合衆国における認可機関は米獣医学協会(American Veterinary Medical Association;AVMA)及び各州に設立されている獣医師会である[1]

AVMA認可の獣医大学の卒業者はNAVLE北米獣医師免許試験(North American Veterinary Licensing Examination)に合格し、各州の獣医師免許試験を合格すればその州で獣医師に従事することができる[1]

カナダの獣医師

獣医師免許のカナダにおける認可機関はカナダ獣医学協会(Canadian Veterinary Medical Association;CVMA)である[1]


  1. ^ a b c d e f g h i 北米獣医師試験を受験するには”. 日本獣医師会. 2017年9月6日閲覧。
  2. ^ a b c d 獣医師』 - コトバンク
  3. ^ 「獣医師」と呼称するのが正式であり、単に「獣医」と言うのは不正確である。
  4. ^ https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/051/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2014/06/25/1338845_1.pdf#search=%27%E5%88%9D%E4%BB%BB%E7%B5%A6%E8%AA%BF%E6%95%B4%E6%89%8B%E5%BD%93+%E7%8D%A3%E5%8C%BB%E5%B8%AB%27
  5. ^ 政岡俊夫 (2013年2月13日). “我が国における獣医師の需給見通し等について(意見)”. 第10回 獣医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議 資料4-2. 文部科学省. 2017年7月12日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h 提言「わが国の獣医学教育の現状と国際的通用性」”. 日本学術会議食料科学委員会獣医学分科会. 2022年4月4日閲覧。
  7. ^ “ペット診療から人命救助へ 欧州の獣医師ら、新型コロナ治療をバックアップ”. (2020年4月3日). https://www.afpbb.com/articles/-/3276978 2020年5月4日閲覧。 
  8. ^ Recognizing the Resilience of USDA Veterinarians this World Veterinary Day” (英語). www.usda.gov. 2023年2月3日閲覧。
  9. ^ World Veterinary Day 2022 focuses on strengthening veterinary resilience” (英語). American Veterinary Medical Association. 2023年2月3日閲覧。


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