国鉄EH10形電気機関車 概要

国鉄EH10形電気機関車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/12 14:58 UTC 版)

概要

全線電化が間近に迫っていた東海道本線および山陽本線貨物列車牽引用として、EF15形をベースに開発された。国鉄が製作した唯一[注 1]の8動軸機であり、国鉄史上最大級の電気機関車である。その巨体から「マンモス」という愛称で親しまれた。

車体や台車は近代化される一方、モーターや制御装置は在来車と同様の堅実路線を採っていた。このような経緯から本機は国鉄の直流電気機関車の系譜において、EF15形以前のいわゆる旧性能機と、ED60形以降のいわゆる新性能機の中間に位置する過渡期の機関車と見なされている。

登場の背景

1940 - 1950年代の東海道本線では貨物輸送需要が大きく、最大1,200tの重量級貨物列車が大型蒸気機関車の牽引で運行されていた。

輸送能力の逼迫と石炭供給難を背景に1951年(昭和26年)に再開された東海道本線電化工事は急速に進展し、1953年(昭和28年)には浜松 - 名古屋間電化が完成した(同年中に名古屋 - 稲沢間を延伸)。この時点で名古屋 - 米原間の電化は目前となっており、さらには京都までの電化による東海道本線全線電化完成も視野に入りつつあった(米原電化は1955年、東海道全線電化は1956年に完成)。

しかし、この間の大垣 - 関ケ原間は10勾配が延々6kmに及び連続し、殊に機関車牽引の重量級貨物列車にとっての難所であった。1953年当時最新鋭の貨物用電気機関車であったEF15形をもってしても、この区間での1,200t列車単機牽引を想定すると出力不足により主電動機過熱フラッシュオーバーが懸念され、これでは十分な速力を得られず並行して運行される旅客列車のダイヤ設定にも支障が生じることが予測された。電化のみでは関ヶ原の隘路の解消は叶わなかったのである。

対策としてはEF15形の主電動機をドライアイス等を利用して強制冷却する、補助機関車の連結といったことも考えられたが、主電動機の冷却は応急的な手段であること、補機の連結は機関車運用が複雑なままとなり電化の意義も薄れるため、EF15形を凌駕する性能の強力型機関車を開発して関ヶ原越えの問題を克服することになっただけでなく、その性能向上分を生かして貨物列車のさらなる増発・速度向上も考えられた[注 2]。この新型機関車EH10形はEF15形(6軸・主電動機6個)とほぼ同性能の主電動機を8個使用する、日本初の8動軸式大型機関車となった[2][3]

実際の設計に関しては、1946年~1947年頃から断続的に進められてきたものの製作については見合わせられてきた[4]が東海道線電化の進行に伴い貨物列車兼引用として強く望まれるようになった1954年に設計が完了し製作が行われた[5][6]


注釈

  1. ^ 8軸の機関車はEH500形が登場するまで、国鉄・JRグループでは本機が唯一の存在であった。私鉄では黒部峡谷鉄道EH形電気機関車も存在するが、これは実質的に片運転台D型機関車2両を常時重連の固定編成として運用しているものである(性格としてはDD50形に近い)。
  2. ^ 新鶴見 - 吹田間の直通貨物列車で所要時間を17時間前後から12時間台に短縮、列車本数の多さや待避線の不足から旅客列車が貨物列車に合わせた低速運転を行っていた平塚 - 沼津間のダイヤを改善して20本から30本の列車増発余力を確保できると考えられていた。
  3. ^ 限りある構内有効長の中で、機関車が占用する長さが大きくなると、その分だけ貨車の連結両数が減る。
  4. ^ 鉄道貨物輸送で国鉄と関係が深かった日本通運がトラックなどに使用していた黄色を取り入れたものであるという。また、1960年代前半まで急行貨物列車に多用されたワキ1形ワキ1000形などの有蓋貨車も黒色に黄色の帯と急行標記を配した塗装であった。なお、貨車の黄帯塗装が65km/h制限車を指すものになったのは1968年10月ダイヤ改正に際しての対応であり、同時期には貨車自体の高速化や特急貨物列車の登場もあって急行貨物用としての黄帯や標記を施した有蓋貨車は消滅していた。

出典

  1. ^ 山崎良夫「EH10形電気機関車」『日立評論』 36巻、11号、日立製作所、1954年11月、49-68頁。doi:10.11501/3285545https://www.hitachihyoron.com/jp/pdf/1954/11/1954_11_06.pdf 
  2. ^ 『鉄道ピクトリアル』1967年6月号 p4 - p5
  3. ^ 『鉄道ファン』1976年6月号 p32 - p34
  4. ^ 1.車両 1-5 EH形電機機関車の要望」『交通技術』 8巻、6(82号)、交通協力会、1953年6月、206-207頁。doi:10.11501/2248431https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2248431/7 
  5. ^ 西尾源太郎「EH形電氣機關車について」『交通技術』 8巻、3(79号)、交通協力会、1953年3月、20-23頁。doi:10.11501/2248428https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2248428/14 
  6. ^ 1.車両 1-5 EH10形電機機関車」『交通技術』 9巻、6(94号)、交通協力会、1954年6月、209-210頁。doi:10.11501/2248443https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2248443/7 
  7. ^ EH10形電気機関車」『鉄道辞典 上巻』日本国有鉄道、1958年、37-39頁。doi:10.11501/2486209https://transport.or.jp/tetsudoujiten/HTML/1958_%E9%89%84%E9%81%93%E8%BE%9E%E5%85%B8_%E4%B8%8A%E5%B7%BB_P0037.html 
  8. ^ a b 『鉄道ピクトリアル』1967年6月号 p31 - p34
  9. ^ a b 『鉄道ファン』1976年6月号 p18
  10. ^ 森佐一郎;荻原勝次郎;斎藤貞喜;伊藤幸成「EH1015電気機関車」『東芝レビュー』 11巻、1(72号)、東芝技術企画部、1956年1月、3-24頁。doi:10.11501/3253763https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3253763/4 
  11. ^ C.調査研究 I.本社の部 5.列車の高速度運転試験」『保線年報 1955年』日本保線協会、1956年、26-27頁。doi:10.11501/2479320https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2479320/14  試験はEH1015,スハフ42,ナハ108,ナハ104,オヤ19820,マヤ3851 で実施。実験目的は"EH50形の設計資料を得るために"とある
  12. ^ 国鉄時代32号 P110. ネコ・パブリッシング. (2013年2月1日) 
  13. ^ 内田昇「高速度試験列車電磁直通ブレーキ裝置」『車両と電気』 7巻、5(77号)、車両電気協会、1956年5月、9-11頁。doi:10.11501/2322745https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2322745/6 
  14. ^ 依田盛武「高速度試験列車用電磁直通ブレーキ装置について」『車輛工学』 26巻、9(275号)、車輛工学社、1957年9月、34-37頁。doi:10.11501/3270671https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3270671/19 
  15. ^ 入江則公「電気車両及び主電動機定格出力の表わし方の一提案」『交通技術』 12巻、5(132号)、交通協力会、1957年5月、29頁。doi:10.11501/2248481https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2248481/19 "第1表b 機関車定格出力の比較"にEH50 が掲載されている
  16. ^ a b 『鉄道ピクトリアル』1967年6月号 p28 - p29
  17. ^ 『鉄道ファン』1976年6月号 p17
  18. ^ 『鉄道ファン』1976年6月号 p21 - p23
  19. ^ 『鉄道ファン』1976年6月号 p21






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