一般的拘束力
一般的拘束力
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/06/18 03:36 UTC 版)
第17条(一般的拘束力) 一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の四分の三以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至つたときは、当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に関しても、当該労働協約が適用されるものとする。 第18条(地域的の一般的拘束力) 一の地域において従業する同種の労働者の大部分が一の労働協約の適用を受けるに至つたときは、当該労働協約の当事者の双方又は一方の申立てに基づき、労働委員会の決議により、厚生労働大臣又は都道府県知事は、当該地域において従業する他の同種の労働者及びその使用者も当該労働協約(第二項の規定により修正があつたものを含む。)の適用を受けるべきことの決定をすることができる。 労働委員会は、前項の決議をする場合において、当該労働協約に不適当な部分があると認めたときは、これを修正することができる。 第一項の決定は、公告によつてする。 労働協約は労働組合と使用者側との契約であることから、協約上特に適用範囲を限定しない限り締結した労働組合に加入している組合員全員に適用され、当該組合員でない者に対して効力が及ぶものではない。しかし、労働組合が第17条・第18条のどちらかの要件を満たした場合は、その労働組合が締結した労働協約が当該組合の組合員以外の者にも自動的に拡張適用される(一般的拘束力)。「同種の労働者」とは、労働協約の適用せられ得べき範囲によって決定される。例えば、当該労働協約が工場事業場の全従業員に適用され得るものであれば、当該工場事業場の従業員たるもの、工員のみについて適用され得るものであれば、工員たるもの、旋盤工のみに適用され得るものであれば、旋盤工たるものが夫々「同種の労働者」である(昭和24年10月24日労収第8180号)。明らかに同種の労働者であるものを労働協約によって異種であるとその範囲を限定しても、第17条の規定による労働協約の一般的拘束力は当然に適用される(昭和25年2月22日労収第341号)。 第17条の「一の工場事業場」とは、個々の工場事業場を指し、一の企業が数個の工場事業場を有する場合は、その企業内の個々の工場事業場の各々が第17条にいう「一の工場事業場」であり、また第17条の適用は、「一の工場事業場」ごとになされるのであるから、ある企業に常時使用される同種の労働者の4分の3以上の数のものが一の労働協約の適用を受けているとしても、その企業の或る工場事業場において、その労働協約の適用を受ける者の数がその工場事業場に常時使用される同種の労働者の数の4分の3に達しない場合、その工場事業場においては、本条の適用はない(昭和29年4月7日労発111号)。拡張適用されるに至った後、その労働協約の適用される労働者の数が4分の3未満に減少した場合、拡張適用は停止される(昭和24年5月28日労収第2829号)。 残り4分の1未満の同種の労働者が、当該協約を締結した組合以外の労働組合を別個に結成していたような場合でも、少数組合の既有の権益を侵害するものでないかぎり少数組合の組合員に対しても拡張適用されるが(大阪地判昭和49年3月6日)、少数組合が独自の判断で固有の労働協約を締結している場合には、多数組合の労働協約を少数組合に拡張適用することは許されない(東京地判昭和44年7月19日)。実際にはこうした場合、多数組合との労働協約に沿って就業規則を改定し、それを少数組合に適用することになる。 非組合員等特定の労働者に労働協約の一般的拘束力を適用することが諸般の事情から見て著しく不合理であるとみなされる特段の事情があるような場合には、拡張適用は認められない(朝日火災海上保険(高田)事件。最三小判平成8年3月26日)。 第17条は労働協約の締結状況だけで自動的に適用されるのに対し、第18条では大臣又は知事の決定によってはじめて効力を生じる。もっとも企業別労働組合が圧倒的な主流である日本では、第18条によって拡張適用が実現された例はきわめて少数しかない。第18条の決議及び決定は、当該地域が一の都道府県の区域内のみにあるときは、当該都道府県労働委員会及び当該都道府県知事が行い、当該地域が2以上の都道府県にわたるとき、又は中央労働委員会において当該事案が全国的に重要な問題に係るものであると認めたときは、中央労働委員会及び厚生労働大臣が行うものとする(施行令第15条)。 第18条の地域的の一般的拘束力についての厚生労働大臣又は都道府県知事の決定は、行政手続法上の「申請に対する処分」又は「不利益処分」、行政不服審査法による不服申立ての対象となる処分には該当しない(昭和37年9月28日労発第156号、平成6年9月30日労発第264号)。 平成20年7月の改正法施行により、最低賃金法に規定する「労働協約に基づく地域的最低賃金」の制度が廃止されたことにより、労働組合法に規定する「労働協約の地域的拡張適用」との両制度の円滑な連絡を図る目的で規定されていた第18条4項が削除されることとなった。
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