vir領域
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/23 16:16 UTC 版)
vir領域の発現は通常の条件下では抑制されており、細菌が植物の損傷部位からのシグナルを検知した際にのみ活性化される。この活性化はVirタンパク質の産生、そして宿主植物細胞へのDNAとタンパク質の輸送に必要である。 VirAとVirGはアグロバクテリウム内で二成分制御系(英語版)を形成している。このシステムは細菌でよくみられる検知・シグナル伝達システムである。この場合、これらは植物由来のシグナルを検知し、vir領域の発現を駆動する。検知の過程で、センサーとなるヒスチジンキナーゼ(英語版)VirAはリン酸化され、レスポンスレギュレーター(英語版)であるVirGにリン酸基を転移する。活性化されたVirGはその後、各virプロモーターの上流に位置するvirボックスと呼ばれるDNA領域に結合し、vir領域の発現を活性化する。細菌が植物由来のシグナルに向かって移動する現象(走化性)は、VirAとVirGによる検知の下流機構である可能性がある。これによって、アグロバクテリウムは植物の損傷部位に向かって移動できるようになる。さらに、T-DNAの輸送もVirタンパク質によって媒介される。 virBオペロンはvir領域で最大のオペロンであり、宿主植物細胞へのT-DNAと細菌タンパク質の移行過程に関与する11個のVirBタンパク質をコードしている(輸送装置については後述)。 virCオペロンは2つのタンパク質、VirC1とVirC2をコードしている。これらのタンパク質はさまざまな植物宿主に対するアグロバクテリウムの病原性に影響を与える。これらのタンパク質の変異は細菌の病原性を低下させるが、病原性が消失するわけではない。virCオペロンとvirDオペロンはどちらも細菌ゲノムにコードされているタンパク質Rosによて抑制される。RosはVirG調節因子結合部位と重複するDNA領域に結合し、そのためこれらの発現レベルの制御に関してVirGと競合する。VirC1とVirC2は、細菌から宿主植物細胞へのT-DNAの接合輸送の際にリラクソソーム(英語版)複合体の組み立てを促進する機能を持つ。この過程はエネルギー依存的過程であり、overdriveと呼ばれるDNA領域に結合した際に生じる活性によって媒介される。結果として、これらの過程は産生されるT-DNA鎖の量を増大させるよう作用する。輸送されるDNA鎖が産生された後、VirCタンパク質はDNA鎖を輸送装置へ差し向ける過程も補助する。 virDオペロンは4つのタンパク質、VirD1–D4をコードしている。VirD1とVirD2は、接合時のT-DNAのTストランドへのプロセシングに関与している。Tストランドは、宿主植物細胞へ輸送される一本鎖DNA分子である。プロセシング時には、VirD1はDNA鎖を巻き戻すトポイソメラーゼとして機能する。VirD2はリラクサーゼ(英語版)であり、DNA鎖の一方にニックを形成し、受容細胞の核へ移行するまで移行DNAに結合したままとどまる。受容細胞内では、VirD2はVirE2とともに、移行するDNAを受容細胞の核へ差し向ける。VirD2はさまざまなタンパク質によるリン酸化と脱リン酸化を受け、こうした修飾はDNA輸送能力に影響を与えることが示唆されている。VirD3の機能はほとんど知られておらず、変異体解析においてもアグロバクテリウムの病原性に関する役割を支持する知見は得られていない。VirD4は接合過程に重要な役割を果たし、Tストランドを認識して輸送チャネルへ送る共役因子として機能する。 virEオペロンは2つのタンパク質、VirE1とVirE2をコードしている。VirE2はTストランドとともに宿主植物細胞へ輸送されるエフェクタータンパク質である。VirE2はTストランドに結合し、宿主植物細胞の核への輸送を行う。この活性の一部はVirE2タンパク質内に存在する核局在化シグナルによるものであり、タンパク質とそこへ結合したDNAは核へ移行する。また、VirE2はTストランドをヌクレアーゼによる攻撃から防ぐ。VirE2はDNAが植物の細胞膜を通過するためのタンパク質チャネルとして機能するという推測もなされている。VirE1はVirE2タンパク質の宿主植物細胞内への輸送の促進に関与している可能性がある。VirE1はVirE2の一本鎖DNA結合ドメインに結合し、VirE2が細菌細胞内で未成熟なTストランドに結合することを防いでいる。 virFは一部のTiプラスミドのみに存在する宿主特異性因子である。例えば、オクトピン型のTiプラスミドにはvirFが存在するが、ノパリン型のものには存在しない。A. tumefaciensの特定の植物種に対するクラウンゴール形成能は、このvirF遺伝子が存在するかどうかに依存している。 virHオペロンは2つのタンパク質、VirH1とVirH2をコードしている。VirHタンパク質のアミノ酸配列のバイオインフォマティクスによる研究からは、これらとシトクロムP450スーパーファミリーとの類似性が示されている。VirH2はVirAに検知された特定のフェノール化合物を代謝することが知られている。
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