アグロバクテリウム法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/15 16:18 UTC 版)
「遺伝子組み換え作物」の記事における「アグロバクテリウム法」の解説
Agrobacterium tumefaciens(正式名称 Rhizobium radiobacter)が主に用いられている。自然界ではA. tumefaciensは、双子葉植物を宿主としてクラウンゴール(crown gallまたはcrowngall)という腫瘍を形成させ、それをA. tumefaciensは資化できるが植物は資化できないオパイン(またはオピン: opine)という特殊なイミノ酸を生産する工場としている。これを生物学的植民地化という。これはA. tumefaciensに含まれるTi (tumor inducing) plasmidのT-DNA (transferred DNA)が植物細胞の核ゲノムに導入されたことによって生じる。そこで、このDNA導入機構を利用して植物への遺伝子導入方法として中間ベクター法とバイナリーベクター法(binary vector)が開発された。そのうち、現在はバイナリー・ベクター法が主流である。これは、Ti plasmidの本来のT-DNAを除去されたvir helper Ti plasmidと、大腸菌とA. tumefaciensの双方で利用できる小型のシャトル・ベクター(shuttle vector)に人工のT-DNAを付与したものとで構築されている。vir helper Ti plasmidには、本来のT-DNAが存在しないため、植物にクラウンゴール(腫瘍)を形成できないが、T-DNAを植物ゲノムに導入するために必要なvir領域が存在しているため、他のプラスミド上に存在する人工T-DNAを植物に導入できる。このように同一のDNA上に存在しなくても、作用しあえる遺伝子間の関係をトランスという。以下に、バイナリー・ベクター法を簡単に説明する。 A. tumefaciensに存在するTi plasmidは巨大プラスミドであり、これをA. tumefaciensから直接単離し試験管内で操作することは困難である。一方、Ti plasmid上にはvir領域という、T-DNAを植物ゲノムに導入するために必要な遺伝子群が存在するので、Ti plasmidは植物への遺伝子導入には必要である。しかし、本来のT-DNAは植物を腫瘍化するので不要である。そこで、本来のT-DNAを欠損したがvir領域を保持したままのvir helper Ti plasmidとそれを保持するA. tumefaciensの菌株が開発された。A. tumefaciensの染色体上にも植物への遺伝子導入に必要とされる遺伝子群(chv genes: chromosomal virulence genes)が存在するために、更にTi plasmidの宿主としてもA. tumefaciensはアグロバクテリウム法において必要とされる。 T-DNAの両末端にはRB(right border:右境界配列)とLB(left border:左境界配列)という短い配列が存在している。RBとLBに挟まれた配列が植物に導入され、その間の配列には特異性がない。つまり、植物に導入したい遺伝子や形質転換植物を選択するための選択マーカー遺伝子をRBとLBに挟みこめば、任意の人工のT-DNAを構築できる。 更に、vir領域とT-DNAとの作用関係はトランスであり、両者が同一のプラスミド上に存在している必要が無い。そこで、操作しやすい小型のシャトル・ベクターに人工のT-DNAを付与したT-DNAプラスミドを試験管内で改変した後に大腸菌を用いて増幅させる。その後、T-DNAプラスミドをA. tumefaciensへ導入して、A. tumefaciens内でvir helper Ti plasmidと共存させて植物に人工のT-DNAを導入させる。この小型のシャトル・ベクターであるT-DNAプラスミドは、大腸菌での複製開始点と広範囲のグラム陰性菌の間での複製可能な複製開始点が存在する広宿主域ベクターであり、また、人工のT-DNA部分内に存在する植物の形質転換の選択に用いられる選択マーカー遺伝子以外にも、大腸菌とA. tumefaciensの形質転換体の選択に必要な選択マーカー遺伝子を別に保持している。 A. tumefaciensの本来の宿主は双子葉植物であるが、vir領域の転写を誘導するフェノール系物質アセトシリンゴン(acetosyringone)の利用やvir領域の転写活性が恒常的に高いhypervirulent helper Ti plasmidの開発により、イネなどの単子葉植物や真菌類などへの応用が可能となってきている。 アグロバクテリウム法は、パーティクル・ガン法に比べ高価な機材は必要なく、また、ランニングコストも低い。T-DNAは植物の核ゲノムに1〜2コピー程度の低コピー数で導入されることが多い。一方、アグロバクテリウムの感染後に抗生物質を用いてアグロバクテリウムを除去するなどの煩雑な操作が必要であり、アグロバクテリウムの感染効率も材料の種類や状態によって様々に変化する。
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