Transrapidとは? わかりやすく解説

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トランスラピッド

(Transrapid から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/05 23:42 UTC 版)

ドイツのエムスラント実験施設でのトランスラピッド09
上海のトランスラピッドSMT(フロント)
上海のトランスラピッドSMT(サイド)
上海のトランスラピッドSMT
ティッセンクルップのトランスラピッド05
ボンドイツ博物館のトランスラピッド06
トランスラピッド06
ミュンヘン空港に展示されているトランスラピッド07

トランスラピッド: Transrapid)は、ドイツで開発された磁気浮上式の高速モノレールである。1969年に計画が開始され、1987年にはドイツエムスランド試験施設が完成した。1991年には、著名な大学と協力したドイツ連邦鉄道により、実用化への技術的な準備が整ったことが承認された[1]

最後のバージョンであるトランスラピッド09は、500km/h(311 mph)の巡航速度に設計されており、約1 m/s2 (2.24 mph/s)の加速・減速が可能である。

2002年には、初の商業実用化である上海市の高速交通網と上海浦東国際空港を結ぶ30.5 km (18.95 mi)の「上海トランスラピッド」が完成した。トランスラピッドシステムは、長距離の都市間路線にはまだ導入されていない。

このシステムは、シーメンスティッセンクルップの合弁会社であるトランスラピッド・インターナショナルが開発・販売している。

2011年、エムスラントの試験線路はライセンスの期限切れにより閉鎖された。2012年初頭には、工場を含むエムスラントの敷地全体の解体と建て替えが承認された[2]。2017年9月には、最後のトランスラピッド09をFleischwarenfabrik Kemperの敷地内の会議・博物館スペースとして使用する計画があった[3]

特徴

強磁性体の永久磁石と通常の電磁石を用いている。液体ヘリウム冷却が必要[4]超伝導電磁石を用いた超電導リニアと比較して、低コストでの導入、運用が可能である。また、超電導リニアと違い、停止時も浮上していることから常時車輪を必要としない。

浮上量は車両側コイルと軌道側の間で、約1cm程度である。このため、軌道の敷設や保守に際して高精度が要求される。また、地震や地盤の変動が避けられない地域においては車両と軌道の接触事故の懸念があり、そのような国土を持つ日本の旧国鉄・現JRでは敢えて難度の高い超電導を利用して浮上量約10cmを確保できる方式の研究開発に取り組んだ、という経緯がある。

ドイツ国内においては主要な都市間において既に従来のICEによる高速鉄道網が整備されつつありトランスラピッドの必要性、優位性は年々減りつつある。その為、高速鉄道のインフラストラクチャの整備が進んでいない新興国への輸出に活路を見出そうとしたが、中国が採用しただけで売り込みは苦戦し、結局開発は2011年に終了した[5]

基本原理

浮上

ガイド下部に設置された、ステータ(鉄心コイル)と車両側の電磁石同士の磁気吸引力を利用して浮上する電磁吸引支持方式で、HSSTと同様の方式となっている。しかし磁気浮上による車体支持と推進時の車体案内が分離されている点で異なる。

電磁吸引方式は停止中でも約8mm程度の磁気浮上をさせる特徴を持ち、走行中においてもこの磁気浮上間隔を保つ。そのため、この磁気浮上を保つためには、センサでガイド側ステータと車体側の電磁石とのギャップを常に計測し、電磁石の電流制御(チョッパ制御)を行わなければならない。

案内

前述のように車体浮上と案内は分離しており、推進浮上とは別に軌道案内のためのガイド用電磁石が設置されている。浮上と同様に軌道と車両との横方向のギャップをセンサにより測定して、これが一定になるようにガイド用の電磁石の磁力を制御している。

推進

リニア同期モータ(リニアシンクロナスモータ)式による推進で、基本原理は超電導リニアと同じである。車両側の電磁石は浮上用電磁石と共通になっており、地上側のコイルの極性切り替えにより推進力を得る地上一次式である。推進力は、車両側の電磁石により進行方向に対して生じた磁界と地上側のコイルに流れる電流との積に比例する。また車両速度は、地上側コイルに供給される交流電流の周波数に比例する。

磁気浮上式鉄道の特徴の一つでもあるが、トランスラピッドは加速性能が極めて高く300 km/hまでの加速に必要な距離が5km(動力集中式のICEは30km 動力分散式のICE3では加速性能は大幅に改善されている)と短い。

エネルギー条件

トランスラピッドの通常の走行でのエネルギー消費は1区間で推進、浮上、車両制御に50-100 kWである。空気抵抗係数英語版(Cd値)は約0.26である。前面投影面積が16m²で時速400km (111 m/s) での走行に必要なエネルギーは以下の式によって導き出される。:

2006年9月22日に、エムスランド実験線のラーテン駅近郊にて、試運転中のトランスラピッドが工事用車両と衝突。詳細は後述。世界の磁気浮上式鉄道で、初めて死傷者を出した大事故である。

2008年3月27日、ドイツのティーフェンゼー運輸・建設相は事業費の大幅な増大を理由にトランスラピット路線建設を断念すると発表。

2011年、トランスラピッドの開発が終了。実験線も2014年に取り壊されることになった[5]

火災

2006年8月11日、午後2時20分頃、上海トランスラピッドで走行中の車両から火災が発生した。竜陽路駅で乗客を全員降ろした後、車両を駅から移動させて消火にあたった。この火災で乗客に被害はなかった。

事故

2006年9月22日(日本時刻午後5時頃)、エムスランド実験線のラーテン駅近郊にて、試運転中のトランスラピッドが、時速200 km/h前後と推定される速度で工事用車両と衝突、作業員2人と、トランスラピッドに乗車していた見学者らが巻き込まれ、うち23人が死亡、11人が重傷。リニアモーターカーとしては初めて死傷者を出した大事故である。原因は、人為的なものと推測されている。

上海トランスラピッド

他の実用化計画

中華人民共和国

中華人民共和国全土に敷設予定の高速鉄道の規格として検討されているが、2006年現在技術移転・特許の問題でドイツ側は消極的な態度をとり続けている[9]

ドイツ

1990年代半ばには、ハンブルク - ベルリン間292kmを結ぶ計画があった。1998年に成立した連立政権はこの計画の建設着工を公約として掲げ、2004年頃の開通を目指すとしていたが、2000年5月に予算のめどが立たず中止となった。

この後、ミュンヘン国際空港 - ミュンヘン中央駅までの37.4kmを営業最高速度300 km/h、所要時間約10分で結ぶことが計画され、2007年9月24日には2014年の営業開始を目指してバイエルン州政府が一度は建設を正式決定した。しかし2008年3月27日、建設費が当初の1.5倍に膨れ上がることなどを理由に、ふたたび建設を断念することとなった[10]

ヨーロッパ

イギリス政府によるロンドン - グラスゴー間を500 km/h[11]バーミンガムリバプール/マンチェスターリーズ、ティーズサイド、ニューカッスルエジンバラを経由する計画があったが2007年7月に却下された[12]UK Ultraspeedも参照)。ほかにもオランダ国内での計画、およびベルリンと東ヨーロッパ諸都市を結ぶ計画が存在する。

スイスでもベルン - チューリッヒ間、ローザンヌ - ジュネーブ間で検討されている[13][14]

アメリカ合衆国

アメリカ政府はボストン - ニューヨーク - ワシントンロサンゼルス - ラスベガスなどの鉄道区間を磁気浮上鉄道に置き換える計画MDP[15]を発表。ドイツはこのプロジェクトにトランスラピッドを売り込んでいる[16]

イラン

2007年にイランとドイツの企業がテヘラン - マシュハド間をトランスラピッドで結ぶ計画に合意した。マシュハド国際見本市会場の期間中にイラン道路交通省とドイツの企業の間で合意文書に調印された。磁気浮上式鉄道はテヘラン - マシュハド間の900kmの所要時間を約2.5時間に短縮する[17]。ミュンヘンを拠点とするSchlegelコンサルティングエンジニアは彼らはイラン交通省とマシュハドの知事と契約に調印し"我々は準備段階にある。"と述べた[18]

その他の計画

アラブ首長国連邦でも検討されている。

脚注

  1. ^ magermunson (2011年1月17日). “Der Transrapid - Werbefilm ThyssenKrupp”. 2018年4月26日閲覧。
  2. ^ Transrapid-Teststrecke vor dem Abriss, NDR (in German)”. 2020年12月1日閲覧。
  3. ^ Ende einer Legende: Transrapid 09: «Nächster Haltepunkt, Nortrup Endstation»” (ドイツ語) (2017年9月14日). 2018年5月29日閲覧。
  4. ^ 液体ヘリウムを用いない比較的安価な冷却方式による超伝導磁石の開発も進められている。詳細は超伝導電磁石を参照。
  5. ^ a b (リニア インパクト)コスト膨張、独の挫折 - 朝日新聞、2014年1月6日
  6. ^ a b Transrapid quote to Victorian Government[リンク切れ]
  7. ^ Transrapid Website - Economic Efficiency
  8. ^ 佐藤信之『モノレールと新交通システム』グランプリ出版、2004年、18頁。ISBN 4-87687-266-X 
  9. ^ Maas, Harald (2008年1月2日). “Schanghai stutzt den Transrapid” (German). Tagesspiegel. http://www.tagesspiegel.de/wirtschaft/Transrapid-China;art271,2448347 2008年3月27日閲覧。 
  10. ^ ドイツ 政治動向”. JETRO 日本貿易振興機構 (2008年11月13日). 2009年2月24日閲覧。
  11. ^ Clark, Andrew (2005年6月6日). “China's 270mph flying train could run on London to Glasgow route if plan takes off”. The Guardian. http://www.guardian.co.uk/uk/2005/jun/06/communities.china 2008年12月26日閲覧。 
  12. ^ “Government’s five-year plan”. Railway Magazine 153 (1277): 6–7. (September 2007). 
  13. ^ Lausanne en 10 minutes” (French). GHI (2011年3月3日). 2011年5月20日閲覧。
  14. ^ In 20 Minuten von Zürich nach Bern” (German). Neue Zürcher Zeitung (2009年6月20日). 2011年5月20日閲覧。
  15. ^ : Maglev deployment program
  16. ^ Dawn of a new transportation era”. Transrapid International-USA. 2008年3月27日閲覧。
  17. ^ アーカイブされたコピー”. 2011年5月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年9月29日閲覧。
  18. ^ UPDATE 2-ThyssenKrupp, Siemens unaware of Iran train deal

外部リンク

リニアモータ方式\磁気浮上方式 電磁吸引方式 電磁誘導方式
支持・案内分離式 支持・案内兼用式
地上一次リニア同期モータ トランスラピッド(TR-05〜、ドイツ)
M-Bahn(旧西ドイツ)
CM1(中国)
  超電導リニア(日本)
EET(旧西ドイツ)
MAGLEV 2000(アメリカ合衆国)
車上一次リニア誘導モータ KOMET(旧西ドイツ)
EML(日本)
HSST(日本)
バーミンガムピープルムーバ(イギリス)
トランスラピッド(TR-02・TR-04、旧西ドイツ)
トランスアーバン(旧西ドイツ)
ROMAG(アメリカ合衆国)
 
推進方式未定
(リニアモータも可能)
インダクトラック(アメリカ合衆国)



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