Phillipsonの英語帝国主義論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 02:20 UTC 版)
「英語帝国主義」の記事における「Phillipsonの英語帝国主義論」の解説
言語帝国主義を定義することは、常に困難を伴う。なぜなら、それを定義することは、その人個人の政治的信条や、増大する西側諸国の英語圏の政治的・経済的・軍事的権力との関係に大抵依拠することになるからだ。例えば、en:Gerald Knowles はブリタニカ百科事典の “English language imperialism” の項目で英語帝国主義を以下のように定義している。 「言語帝国主義は、ある支配的な言語への乗り換えで必ず他者を巻き込む。基本的にその支配言語への乗り換えは、伝統的に軍事力だけでなく、現代世界においては経済力といった権力の表出であって、支配的文化の面々はたいていその支配言語とともに乗り換えられる。」 一方、Phillipson (1992) は言語帝国主義を以下のように定義する。 「英語とその他の言語との間にある構造的・文化的不平等の秩序と連続的再構築によって擁護され、そしてそれが保たれた支配」(ibid: 47) Phillipson (ibid) の持論は、国際語としての英語の歴史的拡大に対する強烈な批判と、いかにしてその歴史的拡大が特にインド・パキスタン・ウガンダ・ジンバブエなどのようなポストコロニアル的な文脈だけでなく、大陸ヨーロッパのような新植民地主義的な文脈で現在の「英語支配」が維持し続けられているかを提示している。こうした Phillipson (ibid) の持論は、主に Galtung (1980) の「帝国主義論」や Gramsci (1971) の「社会理論」、特に文化ヘゲモニーの概念に依拠している (Joseph 2006: 52)。 Phillipson (1992)の持論の中心テーマの一つは、今日の世界において、英語が優位を保ち続ける一連の複雑な覇権のプロセスである。Phillipson (ibid: 173-222) は、ブリティッシュ・カウンシル が英語を奨励するために使ったレトリックを分析し、そのレトリックの根底にある主要な応用英語学や英語教授法の言説を論じている。それらは、 英語は英語で教えるのが一番良い(単一言語使用虚偽) 理想的な英語の教師は英語母語話者だ(母語話者虚偽) 英語は早期に学べば学ぶほどより良い結果が得られる(早期教育虚偽) 英語を使って学べば学ぶほどより良い結果が得られる(極大受容虚偽) 英語以外の言語を使うごとに、その分英語の能力が落ちる(控除虚偽) Phillipson (1992:271–99)によれば、英語を奨励するブリティッシュ・カウンシル・国際通貨基金・世界銀行といった組織機関の人たちや、英会話学校を経営する個々人は、以下に挙げるような立論タイプを使うという。 英語本源論:言語は神から与えられたもので、貴重で高貴で興味深いものだ。通例、これらの主張は英語がそのような特質を持っていて、その他の言語はそうでないと強調する。 英語付帯論:英語はしっかりとした基盤を持っている。熟練した教師や多くの教材がある。また、知識や術語といった豊富な無形資源がある。 英語機能論:世界への架け橋としての英語の有効性を強調する。 そのほかの英語に関する主張は、 経済的・再生産的機能:人々にテクノロジーを与える イデオロギー的機能:現代性 を象徴する 英語は物質的向上と効率のシンボル Phillipson (ibid: 109-136) は、英語が母語でない国ではたいてい英語がエリートの言語になっていると報告している。国際連合・世界銀行・欧州中央銀行などといった有能で影響力のある国際機関では、英語で発言できることが管理職に就くための必須条件になっている。そのために、英語圏の出身者が決定事項を思い通りに動かすことができ、英語が持つ民主主義的イメージとの明らかな矛盾が生まれることになる。
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