都市伝説としての考察
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/03 20:48 UTC 版)
一般にきさらぎ駅の体験談は、他のネット上の怪奇体験談同様、実話の体裁をとった創作と認識されている。多くは作り話であることが明らかであったり、中には作り話であることを投稿者自ら明かしているものもある。Twitterではきさらぎ駅の体験談が写真付きで投稿されたこともあったが、のちにそれは実在するJR紀勢本線三瀬谷駅やJR赤穂線西相生駅などの写真であることが判明している。 オカルト研究家の山口敏太郎はきさらぎ駅の都市伝説が10年以上の長きに渡り語り継がれている要因として、実在する列車や地名を元にした巧妙な物語設定と、駅というロマンの感じられる舞台設定を挙げている。歴史的に集落から離れた村外れに設置されることが多く感傷的なエピソードのモチーフになりやすい駅というロケーションは、怪奇体験談の舞台として好まれ、都市伝説発祥の背景になったとも論じている。さらに山口は、きさらぎ駅を題材にした地元浜松の一連の地域おこしについても言及し、それらを同氏が提唱するクリプトツーリズムの事例として評価している。 怪奇スポット研究家として知られる吉田悠軌は実在する怪奇スポットに空想を傾けられなくなった現代において、人々が架空の場所にロマンを見出すようになったことが背景にあるとしている。また、吉田は2000年代に流行したネット怪談のリアリティと質の高さにも言及し、当時を知らない若い世代がそれらを新鮮に感じ注目が集まる中で、2020年頃から映像作品やバラエティ番組で取り上げられる機会が増えているものとも指摘している。 現代日本の怪奇体験談に詳しい作家の朝里樹は、きさらぎ駅体験談を「現代の異界訪問譚」ならびに「現代の神隠し」になぞらえて考察している。朝里は、怪異とは無縁な生活をしている現代人にも、鉄道が人を異界へと誘うという体験談は身近なものとして受け入れられているとしている。また、その過程を匿名のネット実況によって詳細に語りながら、最後には投稿が途絶えることで謎の失踪をも演出するという、従来の神隠し譚ではあり得なかった新しい手法を確立したものとも評している。 民俗学者の飯倉義之によると、きさらぎ駅のようにインターネットの普及によって発生した参加型の都市伝説は、ネット利用者が怪談体験の「ごっこゲーム」に参加しているという意識によって形作られ、SNSを中心に広まったものと分析している。2ちゃんねるの事情に詳しいジャーナリストの井上トシユキによると、同掲示板の当初の利用者はネタ話を遊びつくしてやろうという意識が強く、作り話と分かった上であえてそれを指摘したり批判したりせず、投稿者の話を上手く引き出すことで都市伝説としての完成度が高められたものとしている。また、体験談がミステリー仕立てになっていて一般のネット利用者が参加しやすかった点も、長い年月を経て新規参入者を受け入れ続けている要因として挙げている。一方、Twitterなどで「きさらぎ駅」に言及する投稿があるとそれに便乗した投稿が相次ぐなど、一種のネット上のジョークとして定着しているとの指摘もある。 なお、きさらぎ駅の創作上のモデルとしては、同じく遠州鉄道の「さぎの宮駅」がモチーフなのではないかという説が主流になっている。バラエティ番組『世界の何だコレ!?ミステリー』では同駅周辺を多くの人がきさらぎ駅目当てに探索するという現象を報じており、遠州鉄道もしばしば公式Twitterを通して同駅をきさらぎ駅ゆかりの地として紹介しきさらぎ駅をテーマにした企画を同駅で開催したこともある。また、アニメ『新幹線変形ロボ シンカリオンZ』(後述)では同駅を作中に登場するきさらぎ駅のモデルとして描写している。2019年現在のさぎの宮駅は周囲に住宅街が広がり交通量も多く体験談との共通点はほとんど認められないが、遠州鉄道の職員によると体験談が投稿された2004年当初は駅前のコンビニや駐輪場がなく夜間は現在よりも少し暗かった可能性が指摘されている。
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