試験の背景と発射の失敗
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/29 19:45 UTC 版)
「マーキュリー・レッドストーン1号」の記事における「試験の背景と発射の失敗」の解説
MR-1の飛行の目的は、マーキュリー計画における弾道飛行のため宇宙船とレッドストーン発射機を検証することであり、宇宙船の自動飛行制御や回収システム、さらに地上スタッフの発射・追跡・回収手順なども確認されることになっていた。またマーキュリー・レッドストーンの、「開ループ制御」で操作される飛行中の自動発射中止検知システムを試験する予定であった。これは発射中止検知システムが中止に要求される状況を報告することはできたが、打ち上げ中止それ自体の引金を実際に引くのは不可能であることを意味していた。この飛行では生身の乗員を搭乗させていなかったため、安全上の問題に拘束されることはなく、誤った信号を送り早まって飛行を中止させてしまうことを防止していた。 この試験では宇宙船2番機をレッドストーンMR-1とともに使用しており、発射場はケープカナベラル空軍基地の第5発射施設だった。当初は11月7日に打ち上げる予定だったが、最後の段階で宇宙船に問題が発生したため中止となり、発射は11月21日に再設定された。 当日は正常に秒読みが行われ、東部標準時の9:00a.m. (14:00GMT)、マーキュリー・レッドストーンのロケットが点火された。だが発射直後にエンジンが停止し、機体は10センチメートルほど浮き上がっただけで発射台の元の位置に戻った。警報音が鳴り響いたがロケットは爆発せず、代わりに妙なできごとが連続して起こった。 エンジン停止直後、緊急脱出用ロケット (Launch Escape System, LES) が点火し、宇宙船をレッドストーン本体に残したまま上昇して行った。LESは高度1,200メートルに到達し、370メートル離れたところに落下した。また脱出ロケット点火から3秒後、宇宙船の減速用パラシュートが展開し、メインと予備のパラシュートを引きずり出した。さらにこの過程でアンテナのカバーが外れた。 結果的に、打ち上げられたのは緊急脱出用ロケットだけだった。だが燃料を満載し、すべての電源が入っているレッドストーンロケットは何の支えもなく第5番発射台の上に屹立しており、その他にも宇宙船の逆噴射ロケットや自爆装置など、様々な危険物がそこには存在していた。さらにロケット本体の横にはメインと予備のパラシュートが垂れ下がっており、もし風をはらめば機体を転倒させるおそれがあった。だが幸いにして当日の気象条件は良好だった。管制室はパニックに陥り、スタッフはこの状況を打開する迅速で有効な手段を思いつけずにいた。タンク内の圧力を下げるためにライフルを撃って穴を開けたらどうかなどという無謀な提案も出されたが、飛行指揮官のクリス・クラフト (Chris Kraft) は、最終的に、技術者の一人が提示した「バッテリーの電圧が下がり酸化剤が蒸発するのを単に待つべきだ」という案を受け入れた。この初期の失敗とその後のパニックについて、クラフトは「何をしたらいいか分からないときは、何もしないというのが管制室の第一のルールだ」と言明した。そのため技術者らは、ロケットと宇宙船のバッテリーが尽き、レッドストーンの液体酸素が蒸発し、作業の安全が確認される翌朝まで待機した。
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