複雑で高価過ぎた重長距離対艦ミサイル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/26 06:02 UTC 版)
「P-700 (ミサイル)」の記事における「複雑で高価過ぎた重長距離対艦ミサイル」の解説
このミサイルは、(ソ連を核空爆可能な)米海軍の空母機動部隊に(空母艦載機に先に撃沈されるのを回避するため)長射程(重弾頭)対艦ミサイルの飽和攻撃で対抗するという、冷戦期ソ連海軍のドクトリンのいわば最終的な帰結であったということが出来る。しかし同時に、このような重量級のミサイルは運用母体を厳しく選ぶことになるだけでなく、高度な自律捜索のための編隊長ミサイルの高高度飛行と隠密性のための僚機の低空飛行や、多数の衛星運用が必要など「前進観測機不要にするための凝り過ぎた誘導システム」の総運用コストは著しく高いものになってしまった。 例えばほぼ同時期に開発され、射程や弾頭搭載量でよく似通っているアメリカのトマホーク対艦ミサイル(TASM)(射程450km、HE弾頭450kg、退役済み)の場合は、総重量は5分の1(約1.4t)で、対地型がほとんどの水上戦闘艦と攻撃型潜水艦に配備されているなど、SS-N-19との違いが目立つ。但し、トマホーク対艦ミサイル(TASM)は大型の翼によって比較小型にかかわらず長距離飛行可能であったが、GPS供用以前の設計で、TERCOM地形照合航法装置は平面な海上では使えず、衛星中間指令誘導未搭載など、誘導に問題があり短期間で退役になっている。 ロシア海軍の指導者たちも、大型で高コスト過ぎるP-700グラニートミサイル・それを搭載した巡航ミサイル原潜や原子力巡洋艦を見限る発言を行っている。冷戦の終結と空母艦載機搭載核の地位低下、マルチロール化による中型航空機搭載ASMの発達、空中給油システムの確立による航空機の外洋活動能力の拡大は米空母を想定目標にした長射程対艦ミサイルの存在意義を事実上失わせ、当面、P-700はロシアの水上艦発射長射程対艦ミサイルとして最後のものと考えられている。 後継にあたるP-800「オーニクス(Оникс)」は潜水艦発射を前提に射程300kmに妥協して重量3tに抑え、かつ超音速である。ミサイル飛行中の目標移動距離が短く、ミサイルの中間誘導は簡略化が可能。そしてソ連独自の艦種であった長射程対艦ミサイル原子力巡洋艦/潜水艦はP-800搭載のヤーセン型原子力潜水艦に統合される予定である。一方、米海軍はGPSと衛星中間指令誘導を搭載し、海上/地上目標兼用の射程3000kmのタクティカルトマホークを装備しており、前進観測手段が敵に撃墜されなければ、敵の陸上航空戦力や空母艦載機の行動半径外から対地/対艦攻撃が一応可能である。「ミサイル飛行中に目標が動くので前進観測手段が必要だが、撃墜されない前進観測手段の確保は困難」という問題は現代でも長射程対艦ミサイルが抱える問題といえよう。
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