製麦
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/16 04:38 UTC 版)
「スコッチ・ウイスキー」の記事における「製麦」の解説
製麦またはモルティングとは、大麦(barley、バーレー)を発芽させて麦芽を作ることをいう。エタノールは酵母と呼ばれる微生物の力を借りてデンプンから生成されるが、酵母はデンプンそのものを摂取することはできないため、デンプンをグルコースやマルトースといった糖に分解して摂取させる。大麦は発芽の際にデンプンを分解する酵素を生成する性質があり、これを利用して少しだけ大麦を発芽させてから進行を止め、十分な量のデンプンとデンプンを分解する酵素がともに麦芽中に存在する状態を作り出す。この状態の麦芽をグリーンモルトという。 大麦には穂の形状によって二条種、四条種、六条種などの種類があるが、モルトウイスキーの原料として使用されるのは粒が大きくデンプンを多く含む二条種である。大麦には種を蒔く時期によって春小麦(スプリングバーレー)と冬小麦(ウインターバーレー)とがあるが、春小麦を用いるのが一般的である。収穫後2か月間は発芽しないので、少なくともその間は保管する必要がある。水分が12%以下になるまで乾燥させると大麦を「眠り」につかせることができ、1年以上の間発芽を抑え品質を保持しつつ保管することが可能となる。 まず保管していた大麦種子に水を吸わせ、さらに空気に晒して呼吸を促す(浸麦)。そうすることで大麦種子を「眠り」から覚まし、発芽を促すことができる。水は種子の重さの約30%に相当する量を吸わせ、水分含有率を44%ほどに高める(収穫時の水分含有率は16%)。浸麦は浸麦槽(スティーブ)で行われ、数時間浸した後で水を抜き、7時間ないし8時間空気に晒すという作業を繰り返す(ドライ・アンド・ウェット)。 浸麦を終えた大麦種子はモルトハウスまたはモルトバーンと呼ばれる作業場のコンクリート製の床の上に広げられ、木製のシャベル(シール)を使って4時間ないし6時間おきに撹拌される。これにより均一に発芽が進行するようになる。芽の長さが種子の5/8ほどの長さになったら麦芽を乾燥させて発芽を止める。乾燥は水分が5%ほどになるまで続けられる。この時、温度が高すぎると麦芽に含まれる酵素の活性が失われてしまうため、温度を上げ過ぎずに、しかも素早く乾燥させる必要があり、そのためには送風速度をコントロールすることが重要とされる。乾燥のための燃料はガスや重油、炭が主で、ピート(泥炭)も用いられる。ピートを麦芽を乾燥させるための燃料として使用することで「スモーキーフレーバー」と呼ばれる煙臭が麦芽に染み込む。この煙臭は以降の製造工程でも失われることはなく、スコッチ・ウイスキーを特徴づける香りの一つとなる。スモーキーフレーバーの内容はピートが掘り出された場所や深さ、炭化の進み具合、ピートを焚く時間の長さなどによって異なる。 なお、かつては蒸留所が自ら製麦を行っていた(自家製麦、フロア・モルティング)が、ほとんどの蒸留所がモルトスターと呼ばれる専門業者に委託するようになった。各蒸留所はモルトスターに対し製法や配合の指示を行い、モルトスターはコンピューター管理された巨大な乾燥装置を使って麦芽を大量生産する。キルンと呼ばれる麦芽の乾燥を行うための塔は蒸留所を象徴する建物であるが、1990年代には実際に稼働するものはほとんどなくなった。
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