給与所得者の特定支出の控除の特例
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「給与所得」の記事における「給与所得者の特定支出の控除の特例」の解説
給与所得においても一定の範囲で実額の経費控除を認めるべく、次に挙げるような費目に関し、給与所得者の特定支出控除制度が1987年(昭和62年)に設けられた(所得税法57条の2)。給与所得控除に替えて特定支出控除を認めるものではなく、特定支出の額の合計額が給与所得控除額の半額を超えた場合に、その超えた額を給与所得控除後の所得金額から控除する仕組みになっている。控除を受けるためには、以下の2つが必要。 特定支出の額の合計額(下記に列挙した通勤費、職務上の旅費などの金額)> 給与所得控除額 ÷ 2 であること。 確定申告を行い、特定支出の額の合計額を記載し、特定支出に関する明細書および給与等の支払者の証明書を添付すること。 特定支出の対象となるのは以下の項目。 通勤費 鉄道・バス運賃のほか、タクシー代、新幹線代まで認められる(特別車両料金等、例えばグリーン車料金等は除く)。飛行機代は認められない。自動車・バイクの場合、燃料費や高速道路料金、自動車等の故障や事故(重過失による事故を除く)による修理代も認められる。なお、業務中または業務間の移動費用(いわゆる交通費や出張費)は対象外。 職務上の旅費 勤務する場所を離れて職務を遂行するための直接必要な旅行のために通常必要な支出。 転居費 転任に伴う引越しに掛かる費用全般。家財一式の梱包、運送費用等のほか、旅行費用の範囲は、飛行機運賃(ファーストクラス費用を除く)が認められ、自動車等の事故修理代等が除かれるほかは通勤費と同様である。宿泊費用も認められる。 研修費 職務の遂行に直接必要な技術又は知識を習得することを目的として受講する研修。 資格取得費 職務に関係するものの受講費用や受験・検定費用など。職務に必須となる資格を取得するためであって、その資格取得のために一般的には必須の手段と考えられるような学校等については、その入学費、授業料も含まれる。またこれらを受けるための交通費も含まれる。資格取得に失敗しても費用は認められる。 弁護士、公認会計士、税理士、弁理士、医師、歯科医師の資格取得費等(法科大学院を含む)は、2013年より認められた。これらの資格のうち、法科大学院については弁護士資格取得のため一般的には必須の手段となるので資格取得費として認められる。会計大学院を受けたり、税法・会計学関連の修士号を取得するのための支出は、公認会計士や税理士試験を受けるために必ずしも必須ではないため、これらの支出は認められない。 帰宅旅費 いわゆる出稼ぎや単身赴任などの場合で、その者の出張地と自宅(配偶者や一定の被扶養者が居る場合に限る)の往復旅費(1ヶ月往復4回・片道8回まで)。旅行費用の範囲は転居費と同様である。 勤務必要経費(最大合計65万円) 書籍費 おおよそ職務に関係あると見なされる書籍の購入費用。新聞、雑誌等も可。電子書籍も書籍費用は対象になるが、パソコンやリーダー等の機器や通信の費用は認められない。 被服費 職務で通常使用するスーツ、ワイシャツ、ネクタイ、作業服、制服等の購入費。いわゆる私服の購入費は認められない。 交際接待費 おおよそ職務上関係あると見なされる外部の者のために支出した交際費全般。贈答費用、接待費、飲食費、慶弔費など。職場内の宴会・親睦会や、同僚やその家族の慶弔費、労組ほか任意団体の組合費などは認められない。 これらの支出は、当該給与所得と同年に支出した費用のみ認められる。前年以前に支出した費用を遡及加算することは認められない。またこれらの支出のうち、給与の支払者(会社等)から補填され、かつその補填金額分が非課税(即ち給与所得の収入金額に算入されない)の場合は、その補填金額分については特定支出とは認められない。実際に特定支出控除を受けるには、それぞれの費目に関する明細書の提出および給与の支払者の証明が必要である。 このような制度が設けられていたが、2012年までは実際に控除が適用となる判定基準額は給与所得控除額と同額であったため、全国でも控除を受けた納税者は非常に限られていた。そのため2013年(平成25年)分より、判定基準額が「給与所得控除額の1/2」(給与収入1,500万円超の場合は、125万円)となり、特定支出控除の対象となる費目の範囲が次のように拡大された。その後2016年分より、判定基準額は一律「給与所得控除額の1/2」となった。
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