給与決定の要素
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/11 11:51 UTC 版)
国公法は職員の給与を決定する要素として、「生計費、民間における賃金その他人事院の決定する適当な事情」を挙げている(第64条第2項)。この規定により、人事院は毎年国民一般の標準的な生活費用(標準生計費)と民間賃金の調査を実施している。実際の給与勧告にあたっては、人事院が官民給与の比較を行い、両者の較差を算出し、職員の給与を民間給与にあわせること(民間準拠)を基本として、俸給表・手当の改定内容を決定する。 民間準拠原則を採用する理由について、人事院は「国家公務員も勤労者であり、勤務の対価として適正な給与を支給することが必要とされる中で、その給与は、民間企業とは異なり、市場原理による決定が困難であることから、その時々の経済・雇用情勢等を反映して労使交渉等によって決定される民間の給与に準拠して定めることが最も合理的であり、職員の理解と納得とともに広く国民の理解を得られる方法であると考えられることによる」と説明している。 なお、生計費は前出の国公法第64条の規定で給与決定の条件の一つに挙げられてはいるが、現在の勧告実務においては全体の給与水準を直接左右する要素としては扱われておらず、俸給表作成時に号俸の盛り付けの参考とされるにとどまっている。これは、生計費は民間給与の形成段階で既に織り込まれており、官民給与の比較をすれば同時に生計費への配慮を行ったことになるとする人事院の見解による(佐藤2009、pp.45-46)。 民間準拠のためには、民間事業所の従業員の給与と、国家公務員の給与の実態を把握する必要がある、民間給与については、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」や国税庁の「民間給与実態統計調査」など政府機関による様々な調査が行われているが、いずれも国家公務員給与と直接比較するための資料としては不十分である。そこで人事院は、官民給与比較に最適な独自の調査として「職種別民間給与実態調査」(通称「民調」)と「国家公務員給与等実態調査」を実施している。 「職種別民間給与実態調査」は、公務と類似する職種に従事する常雇従業員について個人別に4月分の月例給与等を調査する「従業員別調査」と、事業所別に給与改定や雇用調整等の状況、手当制度を調査する「事業所別調査」から成る。大規模な実地調査であるため、人事院が都道府県・政令市などの人事委員会と共同で行う。期間は例年、5月1日から50日間程度である。なお、特別給(賞与、ボーナス)は月例給とは別に「事業所別調査」で調査する。調査対象は企業規模50人以上で、かつ事業所規模50人以上の民間事業所であり、地域別に、産業、規模等により層化無作為抽出される。「従業員別調査」もその標本事業所の従業員が対象となる。 2009年の調査では、50232事業所を対象に、前述の基準で910層に層化し、うち11100事業所が無作為抽出された。「従業員別調査」の調査実人員は78職種に就く463712人であった。 調査対象事業所を事業所規模50人以上とする理由は「これによって、公務と同種・同等の者同士による月例給比較が可能であり、精緻な実地調査による調査の精確性を維持できる範囲で、民間企業の従業員の給与を広く把握し反映させることができ、民間企業の常雇従業員の六割強をカバーできるということに基づく」(佐藤2009、p.44)と説明されている。 一方、国家公務員の給与は「国家公務員給与実態調査」を通して把握される。こちらは人事院が全職員を対象に毎年4月1日における給与実態を調査する。両調査ともに職種、役職段階、年齢、学歴、勤務地域といった給与決定要素別に細かく給与を調査しており、官民給与の精密な比較を行うための基礎的統計となっている。
※この「給与決定の要素」の解説は、「人事院勧告」の解説の一部です。
「給与決定の要素」を含む「人事院勧告」の記事については、「人事院勧告」の概要を参照ください。
- 給与決定の要素のページへのリンク