空冷エンジン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/04 09:32 UTC 版)
「シボレー・コルヴェア」の記事における「空冷エンジン」の解説
米国車としてはユニークなコルヴェアのエンジンは、整備士にそれまでとは異なった知識を要求した。初期モデルで共通の問題は、アルミニウムと鉄の混成エンジンの異なる金属の熱膨張率の違いに起因するオイル漏れであった。シボレーはこの生来の問題に、コルヴェアの全生産期間を通じて取り組みかなりの成果を収めた。この問題はアルミ製ブロックとシリンダーヘッドに挿まれた鋳鉄製シリンダーが、左右のエンジンバンクでお互いを押し合いかなり拡大していくことを含んでいた。オイル漏れの原因はプッシュロッド・チューブの先端に使われているOリングの材質に起因していた。このOリングはコルヴェアのエンジンの運転温度には耐えられないもので、数年するとOリングは硬化し脆くなりオイル漏れを誘発していた。このチューブでの漏れが起こるとオイルはシリンダーヘッドから高温の排気管の上に滴ってオイル焼けの臭気を発し、車体後部の空気排出口から青白い煙をたなびかせることになった。この問題は、1970年代にヴァイトン(Viton)社がプッシュロッド・チューブに密着して500度 Fの運転温度に耐えることのできるOリングを製造するまで続いたが、現在ではコルヴェアの所有者はヴァイトン製Oリングを装着してオイル漏れの問題から解放されている。プッシュロッド・チューブからの慢性的なオイル漏れはGMの選択したプッシュロッド・チューブ用シールの材質に起因し、室内へ送られる暖気も汚すことになった。エンジンルームと車室の間にある幅6-in (152 mm) 長さ16 feet (5 m) のゴム製シールが新品同様の状態に保たれていないと、有害なガスが室内へ漏れ出してくるおそれがある。 暖房システムを通じて室内へ入る煙とガスは、エンジンの発する熱で直接空気を温めて室内用の暖気に利用する空冷エンジン車に付き物の問題であった。排気システムのガスケットが劣化したり壊れていると、一酸化炭素やその他の有害ガスが室内に流入してくる可能性があった。ガスケットはヒーターボックス用吸気管の内部にあり、エンジンの冷却用空気はヒーターのスイッチが入れられると室内の暖房用にも使用された。 1960年モデルのコルヴェアは、フォルクスワーゲン車がディーラー・オプションの補助ヒーターとして設定していたエーベルスペッヒャー(Eberspächer)・ヒーターに似たGMハリソン・ディヴィジョン(GM Harrison division)の燃焼式ヒーターを標準ヒーターとして前方トランク内に備えていた。この装備は1961年モデルではオプションとなり、需要が低かったため1965年モデルで廃止された。空冷エンジン車の代表例であるフォルクスワーゲン・ビートルは、エンジン冷却用の空気とは隔絶した新鮮な空気を使用するより良い暖房システムを採用していたが、コルヴェアのシステムが排気との接触部を8箇所持つのに対し、ビートルではエンジン後部でマフラーに覆われた2つの熱交換器が一酸化炭素にさらされるだけであった。 レギュレーターが過充電を許容し、元々バッテリー用の放出口が設けられていなかったため室内空気が汚されるおそれもあった。エンジンルーム内に搭載されたバッテリーは過充電になると水素を放出する。シボレーはガスをバッテリーからエンジンルームの外へ排出する特製のバッテリーカバーとホースを装着したが、その仕掛けは車が使われているうちに所有者により取り外されてしまうことが多々あった。 車室内の空気汚染の問題は、フォルクスワーゲン・ビートルやコルヴェアが市場に投入される10年も前に、多くの米国の都市のタクシーに関する規制でエンジンの排気ガスで温められた暖気を暖房用に利用する空冷エンジン車をタクシー用車両として使用することを禁じたことにも表れており、空冷エンジン車に常に付きまとう問題である。 コルヴェアのエンジンの冷却ファンはエンジン上部に低く水平に置かれ、冷却空気を吹き下ろした。ファンとジェネレーターはエンジン後部のクランクシャフトに掛けられたベルトで駆動された。問題はベルトがプーリーにより2度90度曲げられ、横に捻られることであった。ベルトの負担が大きく、寿命が短くなる。
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