種族III
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/14 15:10 UTC 版)
種族IIIの恒星は、極めて重く高光度で高温の恒星からなる仮説上の分類であり、近傍の別の種族IIIの恒星が起こした超新星からの放出物が混入している可能性を除いてはほとんど金属を含まない。このような恒星は宇宙の非常に初期段階 (すなわち高赤方偏移) に存在した可能性があり、後の惑星形成や我々が知る生命に必要な、水素よりも重い元素の生成を開始したと考えられる。 種族IIIの恒星の存在は現代宇宙論から推測されるものであるが、これまでにはまだ直接観測されていない。これらの恒星が存在する間接的な証拠は、宇宙の非常に遠方にある重力レンズ銀河において発見されている。これらの存在は、ビッグバンでは生成されなかった重元素がクエーサーの放射スペクトル中に観測されていることの説明となる可能性がある。種族IIIの天体は、faint blue galaxy と呼ばれる暗くて青い銀河の構成要素であるとも考えられている。これらの恒星は、現在観測されている不透明度が低い状態を引き起こした、星間ガスの主要な相転移である、宇宙の再電離の引き金となったと考えられる。UDFy-38135539(英語版) という銀河の観測では、この銀河が宇宙の再電離の過程において役割を果たした可能性があることが示唆されている。ヨーロッパ南天天文台は、ビッグバンからおよそ8億年後の再電離の時期の非常に明るい銀河コスモス・レッドシフト7の中に、初期の種族の恒星が集まる明るい領域を発見している。この銀河のその他の領域は、より赤く後期に形成された種族IIの恒星である。いくつかの理論では、種族IIIの恒星には2つの世代が存在したことが提唱されている。 現在、初代星が非常に重かったかそうでなかったかについては説が分かれている。2009年と2011年に提案された理論では、初代星の集団は一つの重い恒星が複数のより小さい恒星に取り囲まれた構造になることが示唆されている。小さい方の初代星はもし形成された星団にとどまっていた場合、より多くのガスを集積するため現在まで生き残ることができない。しかし2017年の研究では,もしこの恒星の質量が0.8太陽質量以下でより多くのガスを集積する前に星団から放出された場合、現在まで生き延びることが可能となり、銀河系の中にも存在する可能性があることが示されている。 星形成の数値モデルに基づくと、ビッグバン後の重元素が存在せず温かい星間物質においては、現在一般的に観測される恒星よりも遥かに重い総質量を持つ恒星が容易に形成されうると考えられる。種族IIIの恒星の典型的な質量は太陽質量の数百倍になると予想され、これは現在の恒星よりもずっと大きい。理論モデルでは種族IIIの恒星の最大質量はおよそ1000太陽質量とされている。HE 0107-5240 などのような、種族IIIの恒星によって生成された金属を含んでいると考えられる極めて低金属量な種族IIの恒星のデータ解析からは、これら初代の金属を含まない恒星は太陽の 20-130 倍の質量を持っていたことが示唆されている。一方で楕円銀河に伴っている球状星団の解析では、非常に重い恒星が引き起こす対不安定型超新星が星団の金属組成に関与していることが示唆されている。このことは、軽い種族IIIの恒星の理論モデルが構築されているにも関わらず、金属量がゼロの低質量星が発見されていない理由を説明できると考えられる。金属量がゼロの赤色矮星や褐色矮星を含む星団 (対不安定型超新星で形成された可能性がある) は暗黒物質の候補として提案されている。 種族IIIの恒星の検出は、NASA のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の目標の一つである。z = 6.60 に位置するコスモス・レッドシフト7中に観測されている恒星は種族IIIの恒星である可能性がある。
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