石油外資源タイヤ−環境に優しいエコタイヤ
1888年、英国人の獣医ジョン・ボイル・ダンロップによって発明された世界初の空気入りタイヤは、主原料として天然ゴムを使用していました。当初は自転車用だったとのこと。その後、乗用車の技術革新が進み、高速での走行が可能になると、ブレーキ時やコーナリング時の安全性・安定性が要求されるようになり、路面を捉える力=グリップ力に勝る合成ゴムが、天然ゴムにとって替わりました。
近年、地球環境保全から、石油資源に多くを依存する自動車タイヤは、省エネルギー化に取り組む技術開発が一段と進められています。
タイヤは、その外見から「ゴムの塊」という印象を持っている人々が多いかもしれませんが、実際には多種多様な材料が使われています。住友ゴム工業が開発した70%石油外資源タイヤ「ENASAVE ES801」は、タイヤの大部分を占めるトレッドゴムとサイドウォールゴムを、天然ゴムを主原料とした新コンパウンドにすることで、従来の同社製タイヤの約56%から70%に引き上げた、エコタイヤとも呼べるタイヤです。
ころがり抵抗の少ない天然ゴムの使用率を高めたほか、ゴム補強材は従来のカーボンからシリカに、オイルは鉱物油から植物油に、タイヤ補強材は合成繊維から植物性繊維に、それぞれ切り換えています。天然ゴムの使用率を上げることで、従来と比べて転がり抵抗を30%低減でき、燃費を向上させました。
タイヤの構成材料のうち、石油外資源化が難しい老化防止剤、加硫促進剤が占める割合は約3%といわれ、石油外資源の使用比率を97%まで高めることが可能です。同社では現在、石油外資源の使用率をさらに高めた製品の開発を進め、2008年までに石油外資源使用比率を97%まで引き上げた製品の量産化を目指しています。
自動車の低燃費化には、タイヤの転がり抵抗を低減させることが有効です。ころがり抵抗の小ささを維持しつつ、グリップ力を改善する。合成ゴムがグリップ力にすぐれている理由は、ゴムの分子に付いているベンゼン環が走行中にゴム分子を振動させることで、タイヤと路面との間の摩擦が増すことにあります。しかし天然ゴムの分子には、ベンゼン環が付いていません。天然ゴムの分子にベンゼン環を付けられないか、ベンゼン環に替わる突起構造を加えることができないか−これが天然ゴムタイヤ開発の最大のテーマでした。そして試行錯誤の末にたどり着いたのが、天然ゴムにエポキシ基を付加した素材「改質天然ゴム」。エポキシ基が合成ゴムにおけるベンゼン環に替わってゴム分子を振動させ、グリップ力を向上させることがわかったのです。
多くの材料の複合製品であるタイヤ。その材料の全てを一つひとつ検証し、新たに開発していくためには、様々な試行錯誤があったことでしょう。既存のタイヤとはずいぶん異なる素材で作られていますが、そうと知って走らせても、他のタイヤと違う動きや反応が伝わってくるわけではありません。
環境問題を見据えつつ、天然ゴムの低燃費性や耐久性を活かした、安全で快適な走行性能を実現するタイヤの開発は、石油資源の枯渇対策として天然資源の使用率を拡大させ、温暖化防止対策として燃費性能を向上させます。素材の違いを表に出さない「普通の」資質を実現する。これこそ「技術革新」のあるべき姿といえるでしょう。
写真は住友ゴム工業(株) 「ENASAVE ES801」。平成18年度 第17回 省エネ大賞(省エネルギー機器・システム表彰:経済産業省主催)において、省エネルギーセンター会長賞受賞。業界に先駆け石油資源への依存度を低減させたこと、転がり抵抗の低減が省エネルギーに貢献していると認められた。
(掲載日:2007/02/09)
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