注視事項
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/04 15:01 UTC 版)
意図の欄で示したように国際的な経済効果の動向は報告されているが、国内では詳細な数値は公になっておらず、推進力の項で触れた人材不足も否めず、自治体が行動に移すだけの根拠が足りていない。このことに関し元文化庁長官の近藤誠一は講演で、「文化・芸術の持つ力は必ずしも数量化できない。そして短期的に目に見える形に必ずしも現れないことが一つのネックになり、戦後の日本は財政的にも、人的資源においても十分な投資をしてこなかったという気がしている。そのつけが今、来ている。」と語っている。現代アートを含む創造産業においては知識経済のみあらず、作り手・発信者(クリエイター)の存在が不可欠だが、アルビン・トフラーが指摘する「文化の消費者」(需要)もなければ経済性が伴わず、実効力も低下する。 創造性ある知的創作物も文化的価値が伴わなければ意味を為さないが、その価値を計る尺度に統一基準はない。「街かど美術館」や「町全体が美術館」といったパブリックアートは、場合によっては遺産景観を損なうことにもなりかねず、タギングやグラフィティのようなストリートアートを創造性と見做すかの境界線も曖昧である。恒久性がある遺産(ヘリテージ)に対し、現代アートのような創造作品は一過性のイベント的な展示が多く、散会撤去後に遺産(レガシー)としてどう活かすかが問われ、現代アートを恒久的に保存展示する場合には歴史的景観への配慮が必要である。遺産と創造性は、調和とゾーニング(棲み分け)が求められる。さらに藤田直哉が「前衛のゾンビたち – 地域アートの諸問題」として指摘するように、成功事例に追従し類似したものが増えることで創造性が失われる事象もある。 また、イスラム世界では侮辱となるシャルリー・エブド紙のムハンマド風刺画のように表現の自由との調整も必要となり、遺産の側に著作権等がある場合は芸術分野でリスペクトやフィーチャリングあるいは二次創作物として引用・流用される作品の取り扱い範疇に留意が必要となり、フリーカルチャー運動などの動向も注目すべきである。 そうした中で具体的な行動を開始した例として、姫路城で開催される現代美術ビエンナーレは遺産と創造性の融合と捉えられるが、「和の文化財に対し開催場所として相応しくない」との意見や前衛芸術(アバンギャルド)やキッチュな作品に関心や理解を示さないことによる批判もあり、「このような誤謬が文化の発展と持続可能性の障壁となる」とユネスコは警鐘する(注:個人の興味や感性を否定・強制するものではない)。 建築物においても日本ではバラマキ財政による箱物行政で地方の伝統的景観を阻害するような奇抜な建物が見受けられるが、これは創造性とは認められない。ユネスコの「世界遺産と現代建築-歴史的都市景観の管理会議」は、歴史都市に介入する高層建築物や都市開発を注視しており、やはりゾーニング(地域計画)を求めている。独創的な建造物は都会の中心部に留めておくべきで、歴史地区内に必要であればトラディショナル・サクセション・アーキテクチャが望ましい。
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