水中弾効果
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/10/08 02:49 UTC 版)
水中弾効果とは、目標の手前に落下した砲弾が、水中である程度の距離を水平に直進し、艦船の水中防御部に命中することである。 日本海軍はワシントン海軍軍縮条約により破棄されることになった「ポスト・ジュットランド型」未成戦艦「土佐」を用いた射撃試験、同じく除籍となった戦艦「安芸」を標的とした射撃訓練を行った。「土佐」に対する射撃試験では40cm砲弾が舷側に命中、後部機関室内で炸裂し3,000トンの浸水被害を及ぼし、「安芸」を標的とした射撃訓練では「長門」「陸奥」の2隻による初弾発砲から17分という短時間で「安芸」が沈没した。水中弾が予期しないほど大きな効果を持つことが判明する。 この結果、日本戦艦は改装時に水中弾防御を備えるとともに、水中弾道特性に優れた徹甲弾を開発する。開発に際しての実験では、水中にエナメル線を張ってオシログラフを使い砲弾の水中在速を求め、網的を使って水中弾道をトレースした。 通常の尖頭弾は水中では非常に大きな水の抵抗を受け、また横転するなど不規則な挙動を起こし、急激に速度を失い海底に沈む。また浅い落角の場合は跳弾となる。最適形状の砲弾なら水中を安定して進み、やや浮上気味に200口径(20センチ砲弾なら40m、40センチ砲弾なら80m)まで直進する。 この新型徹甲弾は六号徹甲弾(後の八八式徹甲弾)と呼ばれ、頂部が平面な被帽の上に、鋭利な被帽頭を置き、その上に風帽を被せた構造であり、砲弾が水面に命中した際には、風帽と被帽頭が飛散して、水中を直進した砲弾が敵艦の水線下に命中するという構想で開発された。 水中弾効果を最大限に活用するため、六号徹甲弾には調停秒時の長い大遅動信管(0.4秒)が装備されていた。試験の結果、六号徹甲弾は水中弾効果を発揮できると認められ、1930年(昭和5年)に制式採用された。 1934年(昭和9年)頃には水中射表が作られ艦隊司令部に配布された。水中弾の原理は、高速の砲弾が海中を進む際に、平らな弾頭部周辺から気泡が発生し、それが弾体を包み込み、水の抵抗を著しく下げ、弾道を安定させることに有る(スーパーキャビテーション)。 砲弾の落角は14度以上22度以下であることが望ましい。それ以上の落角となる遠距離では水中弾の命中範囲は著しく小さくなる。距離2万mの中距離で戦艦の砲戦が起きた場合、九一式徹甲弾を使う方は命中率が1.6倍に向上する。(注.巡洋艦の主砲の水中弾有効範囲は短いので1.2倍程度と計算される) アメリカ海軍も1935年頃に実験で水中弾効果を確認し、これにより戦艦サウスダコタ級やアイオワ級は日本戦艦同様に水中弾防御を施している。 ノースカロライナ級以前の米戦艦に水中弾防御は無く、また英独仏伊の新型戦艦も水中弾に対する防御を持たなかった。 戦後、平頭弾は捕鯨砲の平頭銛に応用され利用された。また海上保安庁では不審船対策に水中弾効果のある03式平頭弾を採用している。
※この「水中弾効果」の解説は、「九一式徹甲弾」の解説の一部です。
「水中弾効果」を含む「九一式徹甲弾」の記事については、「九一式徹甲弾」の概要を参照ください。
- 水中弾効果のページへのリンク