歴史・研究史
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/11 21:38 UTC 版)
歴史において、ハニナ・ベン・ドーサやアバイエを含む司祭とラビは、人間に対するサキュバスの力を抑止しようとした。しかし、全てのサキュバスが悪意を持っていたわけではない。 ウォルター・マップの『宮廷人の閑話』によると、教皇シルウェステル2世(999年 - 1003年)は、メリディアナと呼ばれるサキュバスと関係したことが彼がカトリック教会で昇進することの助けになったと言われている。死ぬ前に彼は罪を告白し、悔い改めて死んだ。13世紀にアルベルトゥス・マグヌスは「夜間サキュバスに襲われることなく、男が眠ることはほとんどできない場所があった」と記述している。 ジョヴァンニ・フランチェスコ・ピコ・デラ・ミランドラ(1470年 - 1533年)は、姉とも寝たことがあるほどの女性経験がある男がアルメリナと名乗るサキュバスから今までにない快楽を与えられ、夢中になっていると述べている。 スコットランド王ジェームズ6世(イングランド王ジェームズ1世)は著書『デモノロジー』でサキュバスに言及している。ニコラ・レミ(1530年 - 1616年)によると、サキュバスのアブラヘルを抱きしめたペトローン・アルメンテリウスは、四肢が硬直した。また、ヘンネツェルという男に近付いたシュヴァルツブルクという名のサキュバスの中は、氷のように冷たい空洞(speculum)であり、ヘンネツェルは絶頂にも至ることなく彼女から離れざるを得なかった。 ルドヴィコ・マリア・シニストラリは、著書『悪魔姦、あるいはインクブスとスクブスについて』でサキュバスの説話を二例挙げている。一つ目はメニプス・リシアスの例で、彼と同居していた女は床上手で、リシアスは骨抜きにされていた。ついには彼女との結婚を承諾し、披露宴を行うが、出席していた哲学者の一人が女の正体はエンプーサでありサキュバスであると見破った。すると花嫁は金切り声をあげて泣き叫びながら姿を消した。もう一つは、スコットランドの若者の例で、その若者は部屋や窓を完全に閉じていたにもかかわらず、何か月にもわたって美しいサキュバスの訪問を受けていた。サキュバスは寝室へやって来ては甘い言葉を囁き、姦淫を犯すよう誘惑した。しかし、貞潔な若者の心を変えることはついに出来なかった。 1462年、イタリアのボローニャで、ある男性がサキュバスばかりの売春宿を経営していた罪で処刑された。 1486年にハインリヒ・クラーマー(1430年 - 1505年)によって書かれた『魔女に与える鉄槌』によると、コブレンツでは、ある男が妻と友人の前でサキュバスと性交することを強制された。その情事は三回続けて行われたが、サキュバスは更に続行することを望み、男は疲れ果てて倒れた。ピエール・ラ・パリュは、悪魔は死んだ男の体からも精液を搾り取ると述べている。 バンベルク魔女裁判の犠牲者であるヨハネス・ユニウス(1573年 - 1628年)は、フィクセンという名のサキュバスを悪魔から与えられ、サキュバスの指示に従い性交した罪などで処刑された。 ジョリス=カルル・ユイスマンスは新しい小説の創作のため、悪魔について博識と名高い司祭のジョゼフ=アントワーヌ・ブーランにサキュバスの資料を提供するよう求めた。ユイスマンスはジャン・ボダンやシニストラリが書いた文献ではそれについて知るのに不十分と批判していた。ブーランは自分は誰よりもサキュバスについての情報を持っていると自信を示し、ユイスマンスの申し出を承諾した。 ブーランによると、悪魔や死者の降霊の際に使用される「流体」という物質が存在し、サキュバスは死者に「流体」で作った体を纏わせ、それを犠牲者の下に届けるという。この場合、死者は地上で土に還った元の体ではなく、「流体」で作られた新しい体で現れる。別の場合だと、サキュバス自身が「汚物」から立ち上る「流体」を用いて人間の体を得る。サキュバスはこのように「流体」で作った人間の体を使って生身の人間と交接する。 ユイスマンスはブーランからの情報を受け取り、『彼方』の中でサキュバスの正体は悪魔ではなく魔術師によって呼び出された死者の霊だと主張する登場人物を描いた。ユイスマンスはブーランのことをアリージュ・プランスに送った手紙の中で「サキュバスを呼び出す神父」と表現した。 アレクセイ・ニコラエヴィチ・マスロフは、サキュバスを人の精神を支配する手段として肉体の破壊を試みる「女性の姿をした悪魔」と記述している。 心理学者のスタン・グーチは自身がサキュバスに遭遇した体験について語っているが、彼の話によると、サキュバスは自身が今までに出会ってきた女性が合成されたような存在だったという。しかし、自身の記憶に一切ない要素もその存在に備わっており、サキュバスは彼の記憶によって立脚している部分があるにもかかわらず、想像のみによって作り上げられた存在ではなく、本質的に独立した存在であることが分かったと述べている。その後、彼はサキュバスと性交渉を結んだというが、その行為は非常に快いものであり、部分的には現実の女性との性交渉の快楽を上回っていたと述べている。 ジェフリー・バートン・ラッセルによると、サキュバスが男を誘惑するのは自身の快楽のためではなく、相手を辱めて堕落させるためであるという。 ジャン・マルカルはリリートゥないしアルダト・リリーはサキュバスであると述べている。彼によるとリリートゥは乳房に乳がない処女のサキュバスであり、「性交をせずに男と性関係を持つ」という逆説的な存在だという見解を示している。『ソロモンの遺訓』に記述されている女悪魔オノスケリスは、サキュバスの一種とされることがある。
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