欧州内での移動の自由と国の主権との対立についてのイギリス人の受け取り方
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/19 04:26 UTC 版)
「イギリスの欧州連合離脱是非を問う国民投票」の記事における「欧州内での移動の自由と国の主権との対立についてのイギリス人の受け取り方」の解説
欧州連合基本条約は、欧州連合条約(Treaty on European Union, TEU)と欧州連合の機能に関する条約(Treaty on the Functioning of the European Union, TFEU)からなり欧州連合の法的根拠となっている。TEUの第3条によって、EU域内での人の移動の自由を確かなものにすることが提起され、TFEUの第20条によってEU市民がEU域内を自由に移動し定住することが保証される。そしてTFEUの第45条によってEU域内のEU労働者の移動が保証される。ゆえにEUの市民権を保持していれば、EU加盟国に居住し働くことが可能である。 これらEU法で定められているような人の移動の自由の保障は、一方で人権を守っているわけであるが、他方治安・安全保障・経済の面では問題もはらむ。もしテロリストがEU域内で養成されれば、(もしくはテロリストがEU域内に入り、仮にEU市民権を得れば)そのテロリストは域内を自由に動き回ることができる。ただしEU加盟国はどこでも移動の自由に関して同じ条件下にいるわけであり、人権や移動の自由の重要性やEUの意味や効用を深く認識し、副作用的な面については様々な合理的な対処法を模索したり、節度を持ってそれを受忍したりしている。だが他のEU加盟国の国民(例えばフランス人、ドイツ人、スペイン人、オランダ人 等々)と、イギリス人とでは、EUの効能と加盟国の主権との関係に対する見解が、やや異なる傾向があった。 たとえば「EU法があるために重い実刑判決をうけた者でもイギリスに入国可能である。イギリス政府は治安への深刻な脅威となる者の入国を拒否できるが、その他の欧州の国々には治安上問題となる者の犯罪歴を共有する義務が無いためにイギリス政府はそれらの情報を知らされないのであり、実質的に入国拒否をすることが難しい。」「また経済の面でも、域内の低賃金労働者や非熟練労働者が仕事を求めて高賃金の国へ移動しその国の国内労働者と職の奪い合いになり、その国の平均賃金に下方圧力がかかるという側面がある。」などといった見解・意見の強調である。(本当は、イギリスで生まれた犯罪者が他のEU加盟国へ入国する場合もあり、他のEU加盟国に迷惑をかけもし、それを他の加盟国は受忍しているのだが、イギリスではなぜか自国が他国に迷惑をかけていることはあまり話題にせず、自国に入ってくることばかりに極端に焦点が当てられ、議論となっていった。) 「イギリスのビザ基準では、イギリスにとって必要な技能を有した移民だけを受け入れることになっている。だがEU法があるためにEU市民はイギリスに居住し労働することが認められている。オックスフォード大学の研究者らによる調査では、仮にEU法が無ければ、EUからの移民の約75パーセントはイギリスで労働許可証が発行されないことがわかっている。分野別では、例えばイギリスの農場で働くEU移民の96%、小売業で働くEU移民の94%がイギリスのビザ基準を満たしていない。」などとも。 2004年にポーランドやその他東欧諸国がEUに加盟し、イギリスへの移民数が増加した。その際の平均収入の1年あたり上昇率は4から5パーセントであった。当時は労働党政権であり、学校などに大きな投資がなされていた。2008年に顕著となった世界金融危機以降、イギリスへの正味の移民数は増加し政治経済状況も変化した。実質収入は圧迫され、公的セクターの拡大は停滞しているとも言われる。 離脱派のリーダー格となったボリス・ジョンソン前ロンドン市長やイギリス独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ党首は、「EUを離脱することでイギリスの主権を回復させ、出入国管理を厳格化させることができる」という主張を行っていた。選挙で離脱が決定した後、ジョンソンは英国次期首相への不出馬を表明、ファラージは党首辞任を相次いで発表した。
※この「欧州内での移動の自由と国の主権との対立についてのイギリス人の受け取り方」の解説は、「イギリスの欧州連合離脱是非を問う国民投票」の解説の一部です。
「欧州内での移動の自由と国の主権との対立についてのイギリス人の受け取り方」を含む「イギリスの欧州連合離脱是非を問う国民投票」の記事については、「イギリスの欧州連合離脱是非を問う国民投票」の概要を参照ください。
- 欧州内での移動の自由と国の主権との対立についてのイギリス人の受け取り方のページへのリンク