植生の特徴
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/08 03:09 UTC 版)
「南硫黄島原生自然環境保全地域」の記事における「植生の特徴」の解説
南硫黄島の自然環境の中でもっとも研究が進んでいるのが植物に関する分野である。これは1982年の総合調査より前に、戦前の1935年、1936年、そして1981年には日本シダの会によって調査が行われた経緯があり、一番調査研究が長く行われていたことによる。これまでの南硫黄島での植物調査によって確認された維管束植物はシダ植物44種、双子葉植物59種、単子葉植物26種の計129種である。なお南硫黄島から裸子植物は確認されていない。 南硫黄島の植物の中で、もっとも共通種が多いのは小笠原群島と北硫黄島、南硫黄島で、ともに7割近くに達している。しかし南硫黄島には小笠原群島を飛び越え、伊豆諸島や日本本土、遠くアジア大陸との共通種もかなり見られる。そしてマリアナ諸島を始めとするミクロネシアは小笠原群島よりも南硫黄島の方が近いが、ミクロネシアと共通すると考えられる植物は南硫黄島よりも小笠原群島の方が多い。これはミクロネシアから小笠原群島に植物がやってきたころ、まだ南硫黄島を始めとする火山列島が誕生していなかった可能性が指摘されている。また距離的に遠いアジア大陸などからの植物は風によって運ばれてきた可能性がある。南硫黄島の植物相を構成する種の数は、島の広さと標高から推定される数字を下回っている。面積のわりに種が少ないことは大洋島の特徴のひとつであり、南硫黄島の場合誕生してからの期間が比較的短いことなども原因している可能性がある。しかし南硫黄島の植物の生物多様性は豊かであるとはいえないが、後述のように多くの絶滅危惧種が生育しており、特に山頂近くの雲霧帯には多くの希少種が見られる。 南硫黄島の植生は大きく分けて海岸部の乾生低木林帯、島の中腹を中心に広がる山地常緑広葉樹林帯、そして島の上部に見られる木生シダや草本植物群落の3つに分けられる。海岸部から標高200 - 300メートル付近までは断崖が多く、土壌に乏しい地域であり、保水性が悪いため土地は乾いていることが多い。このためセンダンやタコノキなどの群落が発達している。また、標高200 - 300メートル以上ではチギやオオバシロテツなどの常緑広葉樹林が広がっている。そして標高400メートル以上ではコブガシ林が広がっているが、コブガシ林は海鳥たちの巣穴が集中している地域と重なるため、小さな植物がきわめて少ないという特徴を持っている。さらに標高500メートル以上の地域は雲霧林となり、コブガシの幹にはコケ植物、シダ植物、種子植物の着生が見られる。 標高600 - 700メートル以上は、火山列島固有種のエダウチムニンヘゴなどの木生シダの群落や、ガクアジサイ、ヒサカキの群落、さらには草本であるススキの群落などが見られる。特にエダウチムニンヘゴ群落は幹に多くの種子植物、シダ植物、コケ植物の着生が見られ、雲霧林としての特徴をよく示している。またガクアジサイ、ヒサカキ群落は北硫黄島、そして八丈島の八丈富士にも分布しているが、父島や母島などの小笠原群島では見られない。これは南硫黄島や北硫黄島のような高い山が小笠原群島にはないためガクアジサイやヒサカキの群落が発達せず、さらには小笠原群島ではなく、伊豆諸島、日本本土そしてアジア大陸との共通種が南硫黄島に見られる原因も島の標高の高さが原因であるとの説がある。
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