暴力団対策法における警戒区域
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「警戒区域」の記事における「暴力団対策法における警戒区域」の解説
2006年、暴力団道仁会の会長人事に反発した一部組織が誠道会を結成したことで始まる抗争により、一般人ら14人が死亡するなどの暴力事件が一部地域で多発、地域住民から対策を求める世論が広がった。 これらの事態を受け第1次野田内閣は暴力団対策法改正法案を国会に上程、2012年7月26日に自由民主党などの賛成により制定され、同年10月30日に施行。同改正法により都道府県公安委員会は「特定危険指定暴力団」もしくは「特定抗争指定暴力団」を適用期間を限定した上で指定することができるようになり、その際に当該暴力団等の縄張りや抗争発生地域に対し「警戒区域」を指定することができるようになった。なお、各特定指定に際し名あて人の意見聴取や官報による公示等従来のルールが準用されるが、国家公安委員会の確認及び審査専門委員の意見聴取手続(6条手続)は準用されず省略実施となる。 指定団体構成員による、警戒区域内の人の生活や企業等の業務遂行に対し、「みかじめ」要求などの暴力的要求行為、暴力団に対する損害賠償請求者を威嚇するなどの妨害行為は、改正暴力団対策法の直罰規定により、従来行われてきた中止命令等の行政処分による警告なしで3年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はその併科となる。 また、警戒区域内において指定暴力団等が当該指定を受けている旨を告知する標章をはがす行為は、指定団体の構成員であるか否かを問わず「何人も」100万円以下の罰金となる。 また、警戒区域内において指定団体の構成員が、暴力的要求行為を行う目的で、面会を要求する行為、電話をかける行為、電子メールを送信する行為、居宅や事業所前のうろつき行為、5人以上の多数集合行為、つきまとい行為は禁止される。公安委員会または管区警察署長は、禁止行為の違反者に中止命令などを発令でき、発令後も反復して禁止行為に違反する「おそれ」がある場合は公安委員会または管区警察署長は防止に必要な命令を発令できる。いずれかの命令に違反した者は、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金又はその併科となる。 第2次安倍内閣樹立翌日である2012年12月27日、福岡県公安委員会および山口県公安委員会は、北九州市の工藤會を特定危険暴力団に指定(期間1年間)、福岡県は18市町、山口県は下関市を含む3市を警戒区域に設定した。また同日、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県の各県公安委員会は、久留米市の道仁会と大牟田市の九州誠道会(浪川睦会)を特定抗争指定暴力団に指定し、福岡県は25市町、佐賀県は離島を除く全域、長崎県は7市町、熊本県は16市町を警戒区域に指定した(期間3ヶ月)。なお下関市では2000年に工藤會系暴力団関係者が安倍晋三内閣官房副長官宅などに火炎瓶を投げ込む事件が発生している。 特定危険暴力団と特定抗争指定暴力団および警戒区域の指定は、指定期間到達後も延長更新され続け、2013年6月に九州誠道会が解散を宣言、道仁会も抗争終結を表明した。しかし公安委員会は指定延長更新を継続。その措置の正当性を担保させるかのように2013年6月30日になって福岡県警は暴力団対策法の直罰規定を初適用し工藤会系組員をみかじめ料要求などの疑いで「再逮捕」した。 2014年5月、両団体の会長が今後抗争を起こさないとの宣誓書を福岡県警本部に提出したことを受け、2014年6月12日、4県の公安委員会は指定を更新しないことを決定、2014年6月26日指定は解除された。 指定解除時点で抗争による粗暴事件は沈静化していたが、暴力的要求行為による被害は続いている。国会の各議院は改正法案制定時に「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議」を決議し離脱表明者に対する援護措置や社会的孤立防止を求めていたが、県公安委員会が援護措置や社会的孤立防止のための具体的な施策を作らなかったこと、県警や暴力追放運動推進センターの離脱者救護能力が低いこと、警戒区域指定の副次的効果として離脱者に対する社会的排除が増大したこと、経済的不平等の拡大や貧困の拡大により離脱環境が悪化したことなど、様々な事情により社会復帰は限定的である。
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