新JISキーボード化の失敗
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/30 16:26 UTC 版)
「親指シフト」の記事における「新JISキーボード化の失敗」の解説
富士通は当初から親指シフトだけでなく、JISキーボードや50音配列を採用したモデルを併売していた。その理由について神田は「特定企業が権利を保持し、かつJIS規格ではない親指シフトは、その性能とはまったく関係の無い理由により官公庁関連からの受けが悪い」という事情があったと説明している。また「親指シフトは独占的に使用すると決めたわけではないが、逆に他社に対して積極的に採用を働きかける行動もとっていなかったことから、途中から他社に対しても積極的に親指シフトの採用を提案していきたい」との意見も表明している。 実際、NECなどライバルメーカーは、M式などの自社が推す規格を販売しても、親指シフトを採用することはなかった。一方で、ソニーが発売していたNEWSの一部モデルに採用されるなど、OASYSと競合関係にないメーカーが、親指シフトを採用した例がある。 神田を含めて、富士通自身が認識しているとおり「JIS規格として採用されていないという事実が、法人・官公庁への営業にとっての足かせとなっている」こと「他社が採用しないので、個人ユーザーへの普及に限界がある」という事実は否めず、また当時から、既存のかな入力でもローマ字入力でもない「より効率的に日本語入力が出来る規格」を要求する声自体は存在していたことなども重なり、業界を巻き込んだ「新JISキーボード」の制定作業へとつながっていくことになった。 「新JISキーボード」の制定作業において、富士通は新規配列の作成ではなく「すでに販売実績があり、かつ使用者から好評を得ている」として親指シフトを提案したが、通商産業省とメーカー各社による審議の結果、1986年(昭和61年)に制定された新JIS配列は、既存のJISキーボードのかな配列を改良した規格が採用された。 神田によれば、新JIS配列の決定過程は 新JISキーボードの審議委員会は、通商産業省の工業技術院電子技術総合研究所の研究室長でもある委員長のリードで進められた。彼はキーボードの研究をしており、新JISキーボードの規格は、その成果に基づいて定められた。 という。 新JIS配列は、ハードウェア的にはJISキーボードと同一、もしくは最下段に小変更を加えただけであるが、かなの配列に関しては新たに調査された日本語文の統計データなどが使われているため、既存のJISキーボードとも親指シフトとも異なる配列であった。 当初は、新たなJIS規格であることや物理的な配列が同一なため金型が流用できるという利点もあり、規格制定直後から富士通を含む各メーカーよりワープロ専用機のオプションとして採用された。しかし、既に普及していたJISキーボードの規格は廃止されなかったこと、シフトキーの位置は、キーボード最下段の中央に設置し親指で操作するセンターシフトも規格書で認めていたが、コスト面から既存のJISキーボードを流用するメーカーが多く、殆ど採用例はなかった。 各メーカーも新JIS配列を積極的に広める姿勢を見せず、出荷台数は伸び悩み、各社はほどなく採用を中止、1999年(平成11年)には「利用実態がない」という理由で、新JIS配列は日本工業規格から廃止され、結局JISキーボードが残ることとなった。 これ以降、新たなJISキーボードの策定は行われておらず、2002年(平成14年)に、JIS X4064において、物理キーボードの実装例として「NICOLA規格」が提示されたにとどまっている。
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